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 2022年度中に「H3」ロケット初号機で打ち上げられる予定の地球観測衛星「だいち3号」。3tクラスの大型の機体には、広い地域を観測する光学センサーや大量の観測データを蓄積できるデータレコーダーなど、さまざまな新技術が投入されている。数十機規模の小型衛星群(コンステレーション)を構築するという地球観測衛星の潮流に、大型衛星として挑戦する。だいち3号にはどのような新技術が開発・投入されているのか。なぜそれらの技術が必要だったのか。科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。(日経クロステック)

 三菱電機と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2022年9月22日、2022年度中に「H3」ロケット初号機での打ち上げを目指している地球観測衛星「だいち3号」を、三菱電機鎌倉製作所で公開した。同衛星は、JAXAの地球観測衛星「だいち」シリーズの最新号機だ。可視光から赤外光で地球を観測する光学センサーを搭載しており、地震や地殻変動、噴火、豪雨などの災害監視と、災害状況把握の基礎情報となる地形・地図情報の取得を目的としている。

三菱電機鎌倉製作所で公開された「だいち3号」
三菱電機鎌倉製作所で公開された「だいち3号」
上部の黒い部位は、センサーの「広域・高分解能センサー」の開口部。黒いのはダスト除けの蓋で、打ち上げ時は取り外す。(写真:松浦晋也)
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 だいち3号は3tクラスの大型衛星で、70kmという大きな観測幅、最大60°もの大きな衛星姿勢変更能力を持つ。発生を予測できない災害を1機の大型衛星で監視し、有用な情報を宇宙から得るための技術的挑戦といえる。

 宇宙航空の世界では既に、数十機規模のコンステレーションの構築が大きな潮流となっている。だいち3号は大型衛星でありながら、多数の小型衛星が補完し合いながら地表を観測できるコンステレーションに対抗しなければならなかった。だからこそ三菱電機とJAXAは、この挑戦のために多様な観測モードや高速のデータ送信能力といった新たな技術を開発し、導入したのだ。

 では、だいち3号に導入された技術はそれぞれどのようなものなのか。コンステレーションが主流となりつつある宇宙航空技術の中で、どのように位置付けられるものなのか。

高分解能で広域を一気に観測する光学センサー

 だいち3号は、「先進光学衛星」として2015年からJAXAらが開発してきた衛星だ*1。先進光学衛星という名称から分かるように、可視光から近赤外で観測を行う光学センサーを搭載している。

*1 開発コード名はALOS-3(Advanced Land Observation Satellite-3)。初代の「だいち(ALOS:2006年打ち上げ、2011年運用終了)」、2代目の「だいち2号(ALOS-2:2014年打ち上げ、運用中)」に続く衛星。この他、現在、「だいち4号(ALOS-4:H3の開発遅延に伴い2023年度以降打ち上げ予定)」も開発中だ。だいちは光学センサーと、電波レーダーを使って24時間昼夜を問わず、悪天候でも地上を観測(撮像)できる合成開口レーダー(SAR)の相乗り衛星、だいち2号と4号は、SARを搭載したレーダー衛星。
だいち3号の概要
だいち3号の概要
直下の地方時が午前10時30分の太陽同期準回帰軌道(同一地域を通過する時間が毎回同じになる軌道。太陽光の向きが常に一定になる)という光学地球観測衛星としては標準的な軌道を使う。午前10時30分は、太陽高度が高からず低からず、かつ午前で地面温度が低いので陽炎(かげろう)が発生しにくく、鮮明な画像を得られる利点がある。同じ地点の直上に戻って来る回帰日数は35日と長いが、ほぼ直上に近い軌道を通るまでのサブサイクルは3日と短い。(出所:JAXA)
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 だいち3号は、災害発生時にいち早く災害の全体状況を把握することを目的に、パンクロマチック(モノクロでの撮像)では1ピクセルが0.8mという高い分解能で、1度に幅70kmという広い地域を観測する光学センサー「広域・高分解能センサー」を新規に開発し、搭載している*2

*2 現状の高分解能光学地球観測衛星は観測幅が10k〜20km程度で、特定の地域をピンポイントで観測している。例えば、米MAXAR(マクサー)の高分解能光学地球観測衛星「WorldView-3」(2014年打ち上げ、運用中)は分解能0.3mと高分解能の観測が可能だが、観測幅は13.1kmと狭い。

 このセンサーは高分解能のパンクロマチックと同時に、6つの波長領域の光で分解能3.2mの観測が可能だ。初代だいちに搭載されていた光学センサーはパンクロマチックとカラーの2つのセンサーに分かれており、かつカラー撮像は4つの波長領域だった。観測波長領域を2つ増やすと同時に、センサーの光学系を共用することで質量を減らした。観測データから地上に何があるかを捉える波長別の解析がより精密にでき、しかも軽量化を図れた。

 センサーの光学系は、レンズではなく4枚の反射鏡を用いた反射光学系。広い視野と高分解能を両立させるためには、大口径で長い焦点距離が必要になる。このためミラーを1つ増やした。併せて光軸の折り畳み回数を増やし、サイズをコンパクトにした*3

*3 初代だいちの光学センサーは3枚の反射鏡を使って光学系を折り畳んで、センサーを小型化していた。
4枚の反射鏡で構成される「広域・高分解能センサー」の光学系
4枚の反射鏡で構成される「広域・高分解能センサー」の光学系
(写真:JAXA)。
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「広域・高分解能センサー」の光学系概要
「広域・高分解能センサー」の光学系概要
斜め方向に観測できるので、2次鏡にはピント合わせのための可動機構が付いている。(出所:JAXA)
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