日本の次期主力ロケット「H3」初号機の打ち上げがついに、現実の日程として見え始めた。2014年に開発を開始してから8年が経過。当初予定していた2020年から2年遅れて、やっと最後の難関である1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)の成功にたどり着いたのだ。しかし、初号機打ち上げで全てが完結するわけではない。むしろ、そこからがH3の成否を決める正念場と言える。何が成否の鍵を握るのか。科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。第1回はH3ロケットが抱える技術的課題だ。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が2014年から開発してきた「H3」ロケット。その開発の最後の関門と言える1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT:Captive Firing Test)が2022年11月7日に終わった。取得データの詳細な解析で問題が見つかる可能性もある。とはいえ、試験が終了した直後のデータをチェックした段階では大きな異常は見つかっていない。
後は初号機の打ち上げを成功させるだけだ――。もし、JAXAがこう考えているとしたら間違いだ。はっきりしているのは、たとえH3が完成に至ったとしても、そこで宇宙輸送系の技術開発への投資を続けなければならないという現実だ。H3の完成をもって何かをやり遂げた気分になり、そこに安住するならば、あっという間に日本の宇宙輸送系技術は世界の第一線から脱落する。それほど大きな課題を抱えている。
H3が現時点で抱えている課題は、大きく3つ挙げられる。1つ目は初号機を打ち上げた後に実績を積み上げて市場の信頼を得られるか。2つ目は、市場の信頼を得られたとして、市場のニーズをつかめるか。そして、3つ目が海外で進む「回収・再利用型ロケット」の潮流の中で、究極の使い捨て型ロケットでいいのか、である。
本稿ではこの3つの課題について、3回に分けて解説する。