日本の次期主力ロケット「H3」の初号機打ち上げが、ついに秒読み段階に入った。最終試験ともいうべき第1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)が成功。技術的にはほぼ完成したといえる。しかし、最も重要なのは初号機打ち上げ後に実績を積み重ね、市場の信頼を得ることだ。どうすれば市場の信頼をつかめるのか。科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。
「H-IIAおよびH-IIBの半額のロケット」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が2014年から開発してきた「H3」ロケットは、そんな低コスト化の課題をクリアしようとしている。開発の最後の関門といえる1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT:Captive Firing Test)が2022年11月7日に終了。主エンジン開発も完了し、低コスト化の実現は確実視されている。
しかし、重要なのはここからだ。JAXA・三菱重工が想定したように2020年代から2030年代にかけての20年間、果たして日本の主力ロケットとして十分な実績を積み重ねられるのだろうか。
CFTが終了し、現時点(2022年12月中旬)では「ハードウエア的には可能なレベルに到達しつつある」と言える。中でもH3技術開発における最難関項目である「LE-9」エンジンが完成状態に到達したのは、素直に高く評価すべきだ。
一部関係者からは「本当に完成するか分からない」とまで言われたエキスパンダー・ブリード・サイクルの大推力エンジンLE-9は、開発が難航して初号機打ち上げが当初予定より2年遅れる原因となった。しかし、初号機を打ち上げられる段階まで完成度を上げられた。今後も、3Dプリンターで出力した部品の適用など、開発項目が残っているが、ともあれ「エンジン完成」という目標は達成できた。
今後は、H3-30、22、24の全形式の打ち上げに成功し、それぞれ十分な打ち上げ能力と、十分に低いコストを実績として示せるか否かが鍵になる。それができれば、少なくとも開発目標の1つ「日本の官需衛星を打ち上げる」についてはクリアできる。
もう1つの「国際的な商業衛星打ち上げ市場から、継続的な受注を確保する」という目標は、「これで道は開けた」というほどには至っていない。日本は1994年に初号機を打ち上げたH-IIロケットから国際市場、中でも年間打ち上げ数の多い商業静止通信・放送衛星の契約獲得を目指した。以来28年。次の世代のH-IIAを開発して打ち上げコストを下げたにもかかわらず、海外からの商業静止衛星の打ち上げは2機にとどまっている。商業打ち上げ市場の供給逼迫など幾つか明るい材料はあるものの、H3が確実に商業打ち上げ市場の一角を占めると予想できる段階にはない。
商業打ち上げ市場に存在感を示すためには「H3-30、22、24の全形式の打ち上げ成功」に加えて、「最初の10機をなるべく早く打ち上げ、しかも全機の打ち上げを成功させて信頼性を実績として示す」必要がある。