宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年2月22日、次期主力ロケット「H3」が2月17日に打ち上げを中断した原因などの調査状況を、文部科学省の「宇宙開発利用に係る調査・安全有識者会合」に報告した。
JAXAの報告によると、打ち上げ約0.4秒前に第1段エンジン「LE-9」を制御する「エンジン・コントロール・ユニット」(ECU)という機器の電源が落ちたために発生したと判明した。電源が落ちた理由は不明だ。今後、究明作業を進め、事前に設定した打ち上げ期間である2023年3月10日までの再打ち上げを目指す。
制御機器が連携して機体を打ち上げる
H3は打ち上げ240秒前から自動カウントダウン・シーケンスがスタートし、地上設備系とロケット搭載系とが協力して自動的に打ち上げ準備を進めていく。
H3の機体内には、さまざまな制御用電子機器が3種類のネットワーク配線でつながれて搭載してある。[1]地上設備との信号をやり取りする地上制御系ネットワーク、[2]機体各部の状態を計測するセンサーの信号が通る計測系ネットワーク、[3]機体各部の動作を制御する制御系ネットワークだ。打ち上げ時の動作で中核となるのは、制御系ネットワークにつながる機器である。
図の第1段側に黄色で記入されている「1段機体制御コントローラ(V-CON1)」でトラブルが発生した。
制御系ネットワークの中心は、第2段に搭載する「2段機体制御コントローラ(V-CON2)」という機器だ。自動カウントダウン・シーケンスから打ち上げミッションの終了まで、全体の動作を監視して制御するロケット全体の「頭脳」というべき制御機器である。このV-CON2の監視・制御下で、V-CON1が第1段機体を制御する。
打ち上げ約6.3秒前に、V-CON1からの信号を受けたECUが第1段エンジン「LE-9」を起動する。続いて打ち上げ前約0.4秒の時点で、 ロケット第2段のV-CON2が、機体の状況が事前に設定した打ち上げ条件をすべてクリアしているか否かを判断する。例えば、「LE-9推力が90%以上まで立ち上がっているか」などを判断する。
打ち上げ条件をクリアできていれば「フライトロックイン (FLI:打ち上げ条件成立)」という信号を発行する。この信号を受け取った第1段のV-CON1が固体ロケットブースター「SRB-3」の点火信号を発行。SRB-3が点火して、H3ロケットは離床を開始する。
V-CON2による打ち上げ条件クリアの判断とFLI信号の発行、その信号を受けてのV-CON1によるSRB-3の点火は、打ち上げ約0.4秒前に、ミリ秒間隔で連続する。