宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2023年3月7日、同日午前に発生した新型ロケット「H3」初号機の打ち上げ失敗について記者会見を開いた。第2段エンジン「LE-5B-3」が着火しなかったことは確実と表明。今後は、着火しなかった原因を調査する。エンジン点火機構や点火機構を制御する制御系、制御系に点火信号を送る機体アビオニクス(電子機器類)と、点火に至るまでの信号の流れをさかのぼって事故原因を探る。
JAXA理事長の山川宏氏は会見で、「原因究明を通じて信頼を回復していく。信頼の回復にはどれだけ早く失敗に対応できるかと、その内容について透明性を持って示せるかにかかっている。それが海外ユーザーの信頼性を確保していくためには大変重要と考えている」と述べ、早期の原因究明・対策と打ち上げ再開を目指す姿勢を見せた。
文部科学省官房審議官のの原克彦氏も「一刻も早く原因を究明したい」と、早期原因究明を支援する考えを明らかにした。
JAXAは山川理事長を長とする対策本部を設置し、原因調査を開始する。
エンジン不着火の2段と衛星は、フィリピン東方沖合に落下
2023年3月7日夕刻の時点で判明している事実は以下の通りだ。
- [1]打ち上げ後304秒の第1段と第2段の分離までは、計画通り正常に飛行した。
- [2]打ち上げ後316秒に予定していた第2段エンジン「LE-5B-3」が着火しなかった。打ち上げ中にエンジンなどから取得できた複数のテレメトリーデータから着火しなかったことは確実。「今はエンジンが着火しなかったという事実しか分からない」(JAXA理事の布野泰広氏)。
- [3]そのまま飛行を続けてもペイロード(積載物)の地球観測衛星「だいち3号」を所定の軌道に投入する望みがないとして、打ち上げ後835秒の午前10時51分50秒に、破壊指令コマンドを送信した。
- [4]第2段および衛星は、分離された第1段と共に、フィリピン東方海上に落下したものと推定される。エンジンが着火しなかったことから弾道飛行で第1段の落下海域に落ちたことは確実。
1999年11月に発生した「H-II」ロケット8号機の打ち上げ失敗では海中に没した第1段エンジン「LE-7」を引き揚げ回収して原因を究明した。この時はLE-7のインデューサーという部品が運転途中で破損したために打ち上げが失敗したと分かっている。布野理事は「(今回はそもそもエンジンが着火していないので)現時点では、H3第2段の回収は考えていない」と回収に否定的な考えを示した。