「初号機打ち上げの時はできる限りチェック・アンド・レビューを実施する。チェックしきれない部分も残るが、チェックしていないのが理由で失敗するケースはあまりない。(打ち上げに失敗するのは)半導体がうまく働かなかったとか、機械に不良品があったといった理由が多い気がする」
日本記者クラブが2023年3月8日に開催した国産ロケットに関する勉強会で、講師を務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授の的川泰宣氏は、ロケットの打ち上げ失敗に関する個人的な印象としてこう語った。
「私が記者なら質問したかった」
勉強会では、日本のロケット開発を切り開いた故糸川英夫氏と発射場を選ぶ時のエピソードや、JAXAの名称が決められた過程などを交えて、日本の国産ロケットの歴史を概説。その後、報道陣の質問に答えた。報道陣からは、勉強会前日の2023年3月7日に失敗に終わったH3ロケットの打ち上げに関する質問が集中した。
初号機打ち上げの難しさについて聞かれた際の回答が冒頭のコメントだ。的川氏は、「1980年代までは、初めての部品やコンポーネントを使っているので、初号機が怖かった。現在は初号機だから大変ということはあまりない。(H3初号機が、人工衛星の)「だいち3号」を積載したと聞いても、『いきなり載せた』という印象はなかった」と話した。
この他、H3ロケット初号機の打ち上げ失敗について、「第2段(エンジンの「LE-5B-3」)が着火しなかったとしか知らないが」と断った上で、2023年3月6日にH3初号機の打ち上げを延期した原因に言及*1。「(H3ロケットの)第2段は多少回路が変わっているくらいで、ほとんど(前モデルの)H-IIAと同じ部品が使われている」点に触れ、「(H3の)第2段に着火させる際、制御系から出した『着火しろ』という命令を受け取った側がある。この受け取った側に新しい回路があったのか、第1段と第2段で共通した設計のやり方があったのか。私が記者なら質問したかった」と語った*2。
「H3がH-IIAよりコストダウンを図った改変の影響は考えられないか」という質問には、「あまりないだろう。自動車部品などが使われていると聞いているが、(使用する部品の動作や性能について)チェックはするので、そういう点は問題なかったのに発生した事故と認識している」との見方を示した。
H3打ち上げ失敗の背景については、「JAXAが自転車操業になっているのではないか。十分に人員を割けないという状況があるとしたら、それは大変困った状況だ」との不安を述べた。
H3打ち上げ失敗の今後への影響について質問され、「個人的には、H-IIAの打ち上げ計画に影響しないか」と憂慮していることを明かした。JAXAは現在、火星衛星探査計画を進めているが、H3の打ち上げ失敗の影響で火星衛星探査機をH-IIAで打ち上げられないとなると、「火星への打ち上げは2年に1度しかチャンスがない。2年待つことになれば、せっかくのチャンスを逃しかねない」(的川氏)。