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 2020年12月中旬から約1カ月続いた日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の価格高騰。世界に類を見ない異常な高騰は、1月の需給ひっ迫と関係があったのか、それともなかったのか。今回の市場高騰が示した課題とは――。SNSに公開情報に基づくデータ分析を投稿している安田陽・京都大学特任教授による緊急寄稿(前編)を日経エネルギーNextからお届けする。

 昨年末から数週間、JEPXスポット市場価格が高騰しています。また、電力ひっ迫の懸念も専門誌だけでなく新聞やテレビなどの大手メディアでも取り上げられるようになりました。しかし、今回の電力市場高騰に関する議論の多くが、電力ひっ迫の懸念も含めて、データに基づいた定量的で冷静な議論とは言えないように思えます。

 定量的なデータ分析を伴わない印象論的推論(いわゆる連想ゲーム)は、問題の本質から目をそらし、原因究明やリスク低減からむしろ遠ざかる可能性があります。昨今の新型コロナウイルスの問題も同様です。

 特段の秘匿情報の暴露や伝聞・臆測情報に依存せずとも、公開データから得られる情報だけでも、数字を分析することによって洗い出されるファクトは少なくありません(もちろん公開データだけでは調査の限界もあります)。そこで本稿では、昨今の電力市場価格高騰がなぜ発生したのか、先入観や臆測を排し、公開データから得られる客観情報を基にエビデンスベースで要因を分析していきます。

世界中の電力市場の歴史上、ほぼ初めてのこと

 まず、スライド1で市場の状況を見てみましょう。(なお、本記事で提示するスライドは、全て著者がTwitterおよびFacebookにて1月15日~17日にかけて速報的にデータ分析結果を投稿したものと同一です。その他、一部他の文献からの図も引用します)。

スライド1●JEPXスポット市場動向 その1
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スライド1●JEPXスポット市場動向 その1
(出所:各種資料を基に著者作成)

 Fig.1-1は、昨年12月からのJEPXスポット市場の売り入札量、買い入札量、約定総量およびシステムプライス(スポット価格の日平均)の推移を示したものです。スポット価格の2019年平均値は7円/kWh台で、ごくまれに短時間だけ数十円に上昇(いわゆるスパイク)することがあります。ところが1月5日は日平均で50円/kWh、1月12日は同150円とほぼ1日中価格が高騰し、それが現在まで続いています。

 電力市場は1990年代から世界各地に設立され、既に30年の歴史があります。価格高騰(スパイク)は多くの国やエリアの電力市場で散発的に発生しています。価格が高騰すること自体は、むしろ市場が正常に機能していることを意味します。

 しかし、今回の日本の状況は、世界で起きているスパイクとは異なります。今回の価格高騰の問題は、数時間や数日といった短期の現象ではなく、既に2週間以上にわたって長期に高騰が続いているという点です。世界中の電力市場の歴史上、ほぼ初めてのことです。

 今回のスポット価格の長期高騰の直接的な原因は、Fig.1-1が示しているように、売り入札量と約定数量が12月下旬頃からほぼ一致している、すなわち売り札が売り切れ状態になっているためだと推測されます。

 Fig.1-2は、売り入札量と約定総量の差(引き算)をグラフ化したものです。12月28日には差がゼロになり、1日を通じてほぼ完全に売り切れ状態である(そしてそれがその後も数日ずっと続く)ことを示しています。

 Fig.1-3は売り入札と約定総量の差に対して、日平均スポット価格の相関をとったものです。売り入札と約定総量の差がゼロになった12月28日以降に。急激かつ異常な価格上昇が始まっていることがわかります。