全3769文字
PR

 日本で初診を含めたオンライン診療の恒久化に向けた検討が始まった。厚生労働省は2021年6月に内容を取りまとめ、秋にオンライン診療に関する指針改定を目指すべく検討会で議論を進めている。医師と患者の間でビデオ通話を活用して診察などをリアルタイムで実施するオンライン診療が浸透すると、どのような世界が広がるのか――。ヒントは、オンライン診療を含む遠隔医療が普及する米国とシンガポールにあった。

医療機器を活用しながらオンライン診療を受けるイメージ
医療機器を活用しながらオンライン診療を受けるイメージ
(出所:PIXTA)
[画像のクリックで拡大表示]

 「日々のバイタル情報を自宅で計測し、医療従事者と情報を共有できることが安心につながった」――。これは米国で遠隔医療のシステムを利用する高血圧患者の家族の声である。この患者はこれまで、血圧測定や診療、医薬品の受け取りのために、月に1度通院していた。高齢で合併症もあり通院を負担に感じていたという。そこで担当医師は、オムロン ヘルスケア(京都府向日市)が2020年9月から米国の医療機関に提供している遠隔医療システム「VitalSight(バイタルサイト)」の導入を決めた。

 遠隔医療はオンライン診療よりも広い概念で、ビデオ通話などを活用して医療従事者が健康増進のための相談や医療行為を実施したり、遠隔にいる専門医が診断を支援したりすることなどを含む。遠隔医療が普及する米国では、高血圧患者の血圧管理を遠隔で実施する動きが広がる。2019年に遠隔での血圧管理が65歳以上の高齢者向け公的医療保険の対象になったことに加えて、新型コロナウイルス感染症が拡大したことが背景にある。

 高血圧の遠隔管理が米国で高齢者向け公的医療保険の対象になったのは、手術や入院など高度な治療が必要な疾患の予防につながると考えられているためだ。高血圧はそのまま放置すると脳卒中や心疾患などの発症につながる。米国では2人に1人が高血圧を発症するといわれている。

オムロン ヘルスケアが米国で提供する遠隔医療システム「VitalSight」
オムロン ヘルスケアが米国で提供する遠隔医療システム「VitalSight」
(出所:オムロン ヘルスケア)
[画像のクリックで拡大表示]

 VitalSightを導入すると、患者の自宅にオムロン ヘルスケア製の通信機能付きの血圧計や体重体組成計、データを送信するための通信ハブなどが届く。患者が自宅で血圧計や体重体組成計でデータを測定し、そのデータが医療機関の電子カルテに転送される。異常値が計測された場合はアラートが出て医師や医療従事者が把握できる。医師は計測されたデータを確認しながら、ビデオ通話などを利用して患者を診療することもできる。

 「高血圧の症状はほとんど痛みがない。これが治療の課題になることがある」と指摘するのはオムロン ヘルスケアの海外サービス事業開発部 部長の小川浩司氏である。痛みやつらさを感じると患者は治療を続ける傾向にある。しかし取り除いてほしい痛みがなければ、通院の手間などがきっかけで治療をやめてしまう患者も多いという。患者が家から治療に参加できるようにすることで、治療の継続につなげる。

 公的保険の対象になったことをきっかけに、米国では高血圧を対象とした遠隔医療のシステムを提供するベンチャー企業が増えているという。オムロン ヘルスケアの小川氏は「我々自身が血圧計メーカーであることに優位性がある。医療機関や患者からのブランド認知が高く、品質に対する信頼を得ており、サービスを選んでもらいやすいと感じている」と話す。