全3629文字
PR

 「眼科医のいない海外の診療所に小型医療機器を常備してもらい、遠隔医療で失明を防ぎたい」(MITAS Medicalの代表取締役で眼科医の北直史氏)――。日本ではなく、あえて新興国などの海外で遠隔医療の事業を展開する日本企業が増えている。ベンチャー企業のMITAS Medical(東京・港)もその1つだ。

モンゴルの診療所で医療機器「MS1」を活用して目を診察する様子
モンゴルの診療所で医療機器「MS1」を活用して目を診察する様子
(出所:MITAS Medical)
[画像のクリックで拡大表示]

 MITAS Medicalは目の診察に欠かせない「細隙灯顕微鏡」の機能の一部をスマホのカメラで代替することで、誰でも簡単に操作できる小型の医療機器「MS1」を手掛ける。MS1は細隙灯顕微鏡の製造実績があるタカギセイコー(長野県中野市)と共同開発したもので、日本で医療機器の登録が完了しており国内で利用できる。しかしMITAS Medicalはまず海外での販売に力を入れる考えだ。アジアやアフリカの一部では眼科医が不足している上、都市に偏在しており、適切な診断と治療に結びついていない。そのため日本なら防げたはずの失明が後を絶たないという。

 MITAS Medicalは、MS1を遠隔医療で活用することを想定する。都市から離れた農村部の眼科医のいない診療所にMS1を常備し、目の不調を訴える患者の目の動画を医療従事者に撮影してもらう。専用のスマホのアプリに動画をアップロードすると、遠隔にいる眼科医が画像を確認して診断する仕組みだ。

 本来の細隙灯顕微鏡は、患者が顎を台の上にのせて顔を固定し、医師が目の状態を診察する装置である。専門医でないと焦点を合わせて撮影するのが難しい。MS1はスマホに取り付ける部品で患者の額と頬を支えることで、専門医でなくても焦点を合わせて目の動画を撮影できるようにした。目に当てる光の種類を変えることで、水晶体や角膜、結膜などにできた傷の有無などを確認できる。

医療機器「MS1」
医療機器「MS1」
(出所:MITAS Medical)
[画像のクリックで拡大表示]

 新興国でMS1の事業を始めるため、モンゴル西部の県で実証実験を実施した。県内の眼科医のいない18カ所の診療所それぞれにMS1を配置し、県中央部の眼科医とアプリで結んだのだ。3カ月間の実証実験で330件の画像が撮影され、そのうち数件が早期に治療が必要な状態だった。「現地で役立つという手応えを感じた。特に、放置すれば失明してしまう急性緑内障発作の患者を発見でき、失明を回避できたことが印象深い」と北氏は振り返る。

 MITAS Medicalはモンゴル以外にも事業の範囲を広げている。2020年1月からカンボジアの外資系の総合病院がMS1を導入し遠隔医療を始めた。日本での事業については、離島やへき地での運用から始める考えだ。