「スマートフォンを活用した精子の簡易チェックをきっかけに受診するカップルが増えている。不妊治療に取り組み始める時期が1年違うと成功率が大きく変わってくるため、その意義は大きい」(獨協医科大学埼玉医療センターの小堀善友リプロダクションセンター副センター長兼准教授)――。生活に欠かせない存在となったスマホが、不妊治療に取り組むきっかけ作りに役立ち始めた。
スマホを活用した精子の簡易チェックサービスは複数の企業が提供している。そのうちの1つが、スピンシェルが2019年6月に提供開始した「SuguCare(スグケア)メンズホームチェッカー」だ。スマホのカメラに光学約555倍の専用ルーペを取り付け、採取した精子の動画を撮影。その動画を専用システムにアップロードすると、生殖補助医療を担う胚培養士から数日でリポートが届く仕組みだ。
スマホの機種に依存することなく動画を撮影できるように、ルーペのレンズ構造を工夫した。利用者の使い方によっては撮影した動画が鮮明でない場合もある。そうした場合でもある程度の範囲があれば、経験豊富な胚培養士のチェックによって精子の状態を正しく把握できるという。リポートには、精子濃度や精子運動率、総精子数などとともに、下回ると自然妊娠が難しいとされるWHO(世界保健機関)の基準値と照らし合わせたコメントが含まれている。利用者はこれらの情報に基づいて医療機関の受診などを検討する。これまでの利用者のうち、WHOの基準に満たなかった人は23.8%にのぼるという。
簡易チェックといえども、医療機関で実施する検査の結果と大きな差があっては参考にならない。メンズホームチェッカーの監修医師でもある獨協医科大学埼玉医療センターの小堀副センター長兼准教授は、22人の精子の状態の指標となる精子濃度や精子運動率などを比較した。その結果「メンズホームチェッカーでのチェックと病院での検査の結果に相関性が見られた。信頼できる結果が得られている」(同氏)とした。
スピンシェルはオンライン診療システムも手掛けており、メンズホームチェッカーとオンライン診療との連携を推進している。2020年6月には東京都内の病院で、メンズホームチェッカーとオンライン診療を組み合わせた、男性向け不妊治療におけるオンライン相談・診療を始めた。相談・診療の際に、スマホでチェックしたリポートを参考にする。今後はオンライン診療の制度の進展に合わせて、さらなる連携を模索していく。「男性不妊の専門医は少ないため、オンライン診療との連携で全国の利用者の利便性が高まる」(小堀副センター長兼准教授)との期待がある。