東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)でCIO(最高情報責任者)を務める横山隆介常務執行役が2020年10月1日のシステム障害以降、メディアの単独インタビューに初めて応じた。
システム障害は全銘柄の終日売買停止という未曽有の事態を招き、東証社長の辞任にまで発展した。横山氏は「この約15年の過程を振り返ると、非常にじくじたる思いがある」と話し「全員で知恵を出し合って一つひとつ課題を解決し、信用を取り戻す」と決意を語った。
東証の2020年10月1日のシステム障害は、全銘柄の終日売買停止という未曽有の事態を招いた。東証が取引を全面的にシステム化した1999年以降、システム障害が原因で全銘柄の売買を終日止めたのは初めてだった。3兆円規模の売買機会が失われたとされる。
横山常務執行役:
東証では2005年と2006年に大きなシステム障害があり、当時の社長が辞任する事態になりました。私は今で言うIT企画部の課長という立場で、システム障害や金融庁への対応など色々なことをしていました。
当時、ITの担当者として、システム障害に起因して会社のトップが辞任する事態になり、非常に重く受け止めていました。我々は同じような事態を2度と起こしてはいけないという思いで、外部からCIOを招いたり、システム開発から運用までの一連のプロセスを全面的に見直したりしてきました。
「ある意味、繰り返してしまった」
こうした一連の改革の節目として、2010年1月に新たな株式売買システム「arrowhead」が稼働した。これまでに東証はarrowheadを2度刷新し、処理性能の向上はもちろん、業務系と運用系のネットワークを分離するなど耐障害性も高めてきたはずだった。
横山常務執行役:
2010年にarrowheadが稼働してからもシステム障害はありましたが、全体としての品質向上はできてきたと思っていたところで、今回の事態が発生しました。東証の社長が辞任することになり、ある意味繰り返してしまった。前回は課長という立場でしたが、今回は直接の責任者であるCIOという立場です。この約15年の過程を振り返ると、非常にじくじたる思いがあるのは確かです。
2020年10月1日、東証がarrowheadの異変を察知したのは午前7時4分。複数のサブシステムが共通で利用する銘柄やユーザー情報などを格納するNAS(Network Attached Storage)へのアクセス異常を示すメッセージを大量に検知したのが始まりだった。
日時 | 概要 |
---|---|
2020年10月1日 午前7時4分 | NAS1号機のアクセス異常を示すメッセージを大量に検知 |
午前7時半ごろ | 日本取引所グループ(JPX)の横山隆介常務執行役が第1報をメールで受ける |
午前8時36分 | 立ち会い開始から全銘柄の売買を停止すると決定 |
午前8時54分 | arrowheadと取引参加者とのネットワークを遮断 |
午前9時26分 | NAS1号機から2号機への切り替えに成功 |
午前9時半以降 | 業務サイドを中心に取引参加者や情報配信ベンダーへのヒアリングを実施 |
午前11時 | 臨時リスク管理委員会を開催。 同委員会の議論を踏まえ、東証の宮原幸一郎社長(当時)が終日売買停止を決定 |
午前11時45分 | 終日売買停止を公表 |
午後4時半 | JPXが記者会見を開始 |
10月2日 | 通常通り取引を再開 |
10月5日 | 独立社外取締役で構成する調査委員会を設置 |
10月19日 | 市場関係者で構成する「再発防止策検討協議会」の設置を発表 |
11月30日 | 金融庁がJPXと東証に対して業務改善命令。 独立社外取締役による調査委員会が報告書を提出 |
2021年3月末めど | 再発防止策検討協議会が売買再開のルールなどを整備 |
横山常務執行役:
私自身は、通勤途中の午前7時半ごろにメールで一報を受けました。その後、売買監理用端末のいくつかに不具合が順次発生し、うまく動作しなくなりました。
相場情報を配信できないと、それは売買停止につながります。さらに、調査の過程で、不具合がNASの切り替え不良に起因していることも分かり、とにかく強制的に切り替える必要がありました。
これは後で判明するわけですが、当時は売買監理用端末から売買停止を操作できない状態となっており、最終的に(arrowheadと取引参加者をつなぐネットワークの遮断という)入り口と出口を止めるような形で売買を停止しました。最終的に、NASの強制切り替えは午前9時半前に完了しました。売買監理用端末からの操作も順次復旧し、相場情報の配信も支障なく再開できるめどが立ちました。