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 2011年3月の東日本大震災から、間もなく10年が経過する。この10年の間に様々な新しいテクノロジーが登場したが、それらは防災や減災にどれぐらい活用されているのだろうか。災害対応ITの最新事情を追う本特集。第2回はスーパーコンピューター(スパコン)によるシミュレーションで津波被害を推定する取り組みを紹介しよう。

 地震による津波の浸水範囲は、地震の強さや発生した場所によって大きく異なる。もしスパコンによる物理シミュレーションによって、津波被害を地震発生直後に予測できれば、津波による被害を少なくしたり、救出活動の初動を早めたりできるのではないか――。

 内閣府が2018年に運用を始めた「津波浸水被害推定システム」は、そのようなコンセプトで導入された仕組みである。東北大学、大阪大学、NEC、国際航業、エイツーが共同開発した。現在は地震が発生してから30分以内に、スパコンのシミュレーションによって津波の浸水被害を推計できる。

スーパーコンピューターを使った津波被害のシミュレーション結果例
スーパーコンピューターを使った津波被害のシミュレーション結果例
出所:NEC
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 従来、津波の被害の大きさは、実際に津波が到来した後に、ヘリコプターなどを飛ばして確認しなければ把握できなかった。シミュレーションによる推計を活用することで、実際の被害を把握する前に的確な救援計画を立案できるようになった。救援活動の開始もそれだけ早められる。

鹿児島県から北海道まで被害推定可能

 津波浸水被害推定システムは当初、南海トラフ地震対策として鹿児島県から静岡県までの約6000キロメートルの太平洋沿岸域における被害を推計できるものだった。それが2020年度から相模トラフで発生する地震を対象に神奈川県から茨城県までの太平洋沿岸や東京湾の被害を推計できるようになり、さらに2021年度からは日本海溝や千島海溝で発生する地震を対象に福島県から北海道までの太平洋沿岸の被害を推計できるようになる。

 津波浸水被害推定システムは地震が発生すると、気象庁が発表する地震の規模(マグニチュード)の情報に加えて、国土地理院が全地球測位システム(GPS)によって観測した電子基準点の位置情報の変化などに基づいて、地震が発生した断層を推定する。そして断層と海水の動きを物理シミュレーションすることによって、沿岸部における津波の浸水被害を推計する。

 2011年3月の東日本大震災では断層が6分間にわたって動いた。この経験を基に、同システムを開発した際には、地震に関するデータをまず7分間収集し、それから正確に地震の大きさや断層の位置を推定するようにした。つまり断層の推定には、データ収集の7分に加えて推定処理の20秒を要する。続くスパコンを使った津波被害のシミュレーションには約5分かかる。さらにシミュレーション結果を可視化して結果を配信するのに3分はかかるため、地震が発生してから津波被害を推計するまでには少なくとも20分はかかり、30分以内には完了するという。

 物理シミュレーションには東北大学や大阪大学が保有するNEC製のスパコンを使用する。これらのスパコンは普段は日常の研究に使われている。マグニチュード7以上の強い地震が発生すると、稼働していたジョブは一時的に停止し、津波被害推計のシミュレーションが自動的に始まる。

 現状では津波被害の推計に20~30分かかるため、推計が終わったころには津波が到達している場合もある。そのためシミュレーションによる推計情報は、救援計画の立案に使うことを想定する。避難経路の策定への適用は想定していない。