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東日本大震災では大規模な通信障害が人々を苦しめた。苦い教訓を踏まえ通信各社は、この10年で通信網の強化に努めてきた。陸から海から空から。あの手この手でつながる仕組みを構築している。

 携帯電話は救援・救助活動や避難生活を支える「命綱」だ。だが東日本大震災では、基地局の倒壊や長時間の停電、基地局までの伝送路の切断などにより、携帯電話事業者各社の通信サービスが一斉に止まった。

 総務省によると携帯電話とPHSは最大約2万9000の基地局が機能を停止し、固定電話は最大約100万回線が不通となった。これを教訓に各社は「つながる」ネットワークを維持するテクノロジーを磨いてきた。

 代表的な取り組みの1つが多彩な臨時基地局の開発だ。災害発生時には陸・海・空の様々な場所で臨機応変に基地局を配置し、通信が途絶えた地域をエリア化する。アンテナやパワーアンプなど基地局を構成する機器の小型化が進んだことから可能になった。

図 携帯電話各社が導入または開発中の臨時基地局
図 携帯電話各社が導入または開発中の臨時基地局
陸海空から通信手段を確保(写真提供:NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)
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 例えばソフトバンクが2020年8月末に報道陣に公開したのは、上空100メートルに浮かんで半径約10キロメートルの範囲に電波を飛ばすドローンだ。20メガヘルツ幅の周波数を使いLTE方式で通信する場合、最大2000人程度の同時通話や毎秒150メガビットのデータ通信ができるという。開発に携わった藤井輝也東京工業大学工学院特任教授・ソフトバンクフェローは「1つの基地局がそのまま空に上がったようなものだ」と話す。

 もともとソフトバンクは気球を使った臨時基地局を開発し、2012年から実証実験をしていた。2016年の熊本地震では福岡県と熊本県の阿蘇方面をつなぐ山間ルートに気球基地局を係留し、電波状況を改善して復旧支援活動を支えた。ただし気球は現地到着後にガスを注入するなどの手間がかかるため、現地で運用開始するまでに6~12時間程度要する点が課題だった。

 それに対してドローン基地局は、現地に到着して1時間以内に運用できる。ドローンには地上から電力ケーブルで給電するため、24時間連続での飛行が可能だ。基地局として1週間程度の連続運用を見込めるという。ドローン基地局はNTTドコモやKDDIも含め、携帯各社が実用化に力を注ぐ。

 KDDIとKDDI総合研究所は2021年1月、ヘリコプターを災害時に携帯電話基地局として利用する実証実験に成功したと発表した。約7キログラムの小型無線設備をヘリコプターに搭載して上空から電波を飛ばす。小型設備は携帯電話網と無線で接続してあり、離れた場所にいる人との直接通話やメールが可能だ。加えて遭難者の救助活動にも役立つよう、携帯電話から発信される電波を捕捉して携帯電話の位置を推定する仕組みも備えている。

海から近づく船舶型基地局

 実用化で先行したのが「海」の基地局だ。その正体は、KDDIグループの「KDDIオーシャンリンク」などの海底ケーブル敷設船。平時は光ファイバーを使った海底通信ケーブルの敷設・保守を手掛け、災害時は津波などで基地局が使えなくなった地域の沖合に停泊して、陸地に向けて電波を送り出す。

 携帯電話各社の臨時基地局は車載型が主流だが、東日本大震災では地震で陸路が寸断されて現場到着までに時間を要した。津波や原発事故の影響で入れない地域も少なくなかった。船舶型はこうした経験を基に開発され、2018年の北海道胆振東部地震でKDDIが初めて本番環境で運用した。

 2017年に竣工したNTTグループの海底ケーブル敷設船「きずな」は船舶型基地局として稼働できるだけではない。操舵(そうだ)室のあるブリッジを船の前方に設けることで船尾側に広大な作業甲板を確保し、災害対策車や発電機など資材を運搬する能力を高めている。復旧作業に従事する職員に対する宿泊施設なども用意している。