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災害対応におけるテクノロジー活用は、民間企業でも進んでいる。代表例が被災者を金銭面でサポートする損害保険会社。その業務は10年間で一変した。クラウドやAIの活用で「救いの手」をより早く届けられるようになった。

 大手損害保険会社が被災者に保険金を支払うのに要する時間は、10年前と比べて大きく短縮した。かつては災害が発生してから保険金の支払いまで数十日はかかっていたが、近年は最短で数日にまで短縮した。さらにその時間を「48時間以内」にまで縮めようとする取り組みも進んでいる。

 最も大きな変化をもたらしたのは、クラウドの活用による業務プロセスの電子化だ。東日本大震災当時、地震に関する保険金支払業務の多くは紙や手作業、電話、郵便に依存しており、ほとんどシステム化できていなかった。

図 大手損保4社における保険金支払いまでのフローの変化
図 大手損保4社における保険金支払いまでのフローの変化
保険金支払いまでの期間を大幅短縮
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 2011年3月11日に東日本で大地震が発生すると、損保各社は東京や仙台に災害対策室を設け、社員や外部の調査鑑定人など数百人を大会議室に集めて手作業で作業に当たった。顧客から寄せられた事故の報告内容や調査結果は紙に記録し、顧客の契約書のコピーと共に顧客1人ごとのクリアホルダーにまとめ、紙ベースで作業を進めた。「2011年当時は紙での管理が基本だった。そのため作業に当たる人員を全国から1カ所に集める必要があった」。三井住友海上火災保険の損害サポート業務部事務プロセスチームの山元大雄部長はそう振り返る。

 被災者からの連絡はまず電話で受け、保険金の申請に必要となる書類を郵便で送った。事故受付から事故登録、顧客に必要書類を送るまでの過程を「初期対応」と呼ぶが、それが終わるまでに1週間はかかっていた。

 数日から1週間後、被災者からの申請書類が郵便で戻ってくると、ようやく被災状況の確認となる。立ち会い調査の日程を調整するために、被災者に電話する必要があった。被災者が留守だと、後から電話をかけ直す必要がある。対策室の壁面には日程調整用の大きな紙がはってあり、鑑定人のスケジュールや顧客対応情報を付箋で管理していた。もちろん立ち会い調査の結果も紙で管理していた。損保各社の総務部門は東京に応援に来る数百人の社員のために、宿泊場所や交通手段の手配に追われていた。

 こうした作業が今は、クラウドによってシステム化された。MS&ADインシュアランスグループホールディングス傘下の三井住友海上とあいおいニッセイ同和損害保険は2020年9月、事故受け付けから保険金支払いまでの顧客対応をクラウド上のデータベースで管理する「自然災害工程管理システム」(DPC)の運用を、グループ共通の取り組みとして開始した。損害保険ジャパンもクラウド上で広域災害時の事案管理やデータ集計・リポート作成などができるシステムを2019年6月に稼働。東京海上日動火災保険は事故対応に関する情報を一元管理する「GNet」を2013年に本格稼働している。

 システムが利用できればどこでも作業ができるようになったため、全国の拠点から人員を1カ所に集める必要がなくなった。会議室の広さといった制約もなくなり、災害規模に応じて全国から社員を動員できるようになった。作業期間の短縮も期待できる。

 電話や郵便に依存していた事故受付は、Webサイトやスマートフォンでも対応できるようになった。

 顧客がスマホやパソコンから被災調査の予約ができる「広域災害立会管理システム」の導入も損保各社で進む。顧客の予約情報をもとにシステムが自動で立ち会い担当者を割り当て、顧客宅を訪問する最適なルートを自動で算出する。