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 NTTがこれまで最大の大勝負となる「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想を公表してから2年あまり。ここに来てIOWNが目指す計画の全貌が見えてきた。現在のインターネットで標準的に使われているTCP/IPの見直しから、サーバーアーキテクチャーの再定義まで、「光」を中心に現在の技術を塗り替えてというNTTの壮大な計画だ。

 IOWN構想を形作るのは、「1人1波長」を扱えるようにする「オールフォトニクス・ネットワーク」や光電融合技術によって現在のサーバーアーキテクチャーを一新しようという「ディスアグリゲーテッド・コンピューティング」、さまざまなネットワーク要素を柔軟につなぐオーケストレーター機能である「コグニティブ・ファウンデーション」、ヒトからモノ、街全体に至るまでをサイバー空間上に再現し、これまでにない未来予測の精度を実現しようという「デジタルツイン・コンピューティング」など多数の要素技術群だ。

 これらの要素技術には、現在のインターネットやコンピューティングの常識を覆す大胆なアイデアがいくつも含まれている。

Socket to SocketからMemory to Memoryへ

 例えばオールフォトニクス・ネットワーク。こちらは現在の中継網に使われている光ファイバーを使って「1人1波長」のエンド・ツー・エンドのパスを作り、用途ごとに高速・大容量伝送を扱えるようにする。1利用者あたり100Gビット/秒という超大容量通信も想定している。映像なども圧縮せず、ほとんど遅延がない形で送受信できるようにする。

1人1波長へ、「オールフォトニクス・ネットワーク」
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1人1波長へ、「オールフォトニクス・ネットワーク」
現在は中継網に使われている光ファイバー網をエンド・ツー・エンドで用い、用途ごとに波長多重するようなネットワークだ(作成:日経クロステック、写真はPIXTA)

 NTTはオールフォトニクス・ネットワークにおいて、現在のインターネットで標準的に使われているTCP/IPではなく、HPC(High-Performance Computing)のメモリーアクセスに使われるRDMA(Remote Direct Memory Access)を活用しようと検討を進めている。

 「TCP/IPはデータ送信する際、送信先と数回往復した上で、データサイズを調整しながら送っている。500KバイトのJPEG画像を送るだけでも100m(ミリ)秒程度の遅延が発生する。撮影したカメラ映像をネットワーク伝送し、分析結果を現場にフィードバックする一連の作業で、遅延時間を1秒以下にすることは相当難しい」とNTT 研究企画部門 IOWN推進室長の川島正久氏は語る。

 オールフォトニクス・ネットワークで高速・大容量を実現したとしても、現在のTCP/IPを使う限り、ネットワーク越しに自動運転などを実現することは難しいだろう。既存のインターネットの仕組みのままでは性能を十分に発揮できないということだ。

 「今の通信はSocket to Socketの形態だ。データを送受信する際にまずはSocketを作り、多くのプロトコルを動かして通信を確立しなければならない。これをIOWNではMemory to Memoryのような考え方で通信を高速化していきたい。大きなパラダイムシフトになる」と川島氏は続ける。

 具体的にはHPCがメモリーアクセスするような要領で広域ネットワークにおいて、データ伝送する方法を描く。「例えばセンサーがネットワーク上の共有メモリーに書き込みすると、AIの分析エンジンがこの共有メモリーを読み込みにいくようなイメージだ。IOWNではコンピューティングが通信を包含するようになる」と川島氏は語る。

 確かにTCP/IPのような煩雑な手順を踏まず、メモリーアクセスのような方式を採用すれば、遅延がほとんどない高速通信が可能になるだろう。だがWAN(Wide Area Network)越しにメモリーアクセスをすると、HPCのように、きょう体内に閉じていないため、セキュリティーの懸念が生じる。川島氏は「セキュリティーは課題。RDMAをそのまま使うのではなく、足りない仕様を標準化で追加するなどして進めたい」とする。