NTTがこれまでにない規模の大勝負を仕掛ける「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」構想。同構想が掲げる超高速・大容量で超低遅延なネットワークを実現するのが、「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」である。「1人1波長」を目指すAPNの実現に向けて課題になるのが、大量に必要となる波長を効率的に扱うための技術だ。現状のインターネットのプロトコルであるTCP/IPもネックになり、NTTは課題解決に向けた研究開発を進めている。
波長帯変換で重複問題を解決
「1人1波長」を目指すAPNの実現に向けて課題になるのが、大量に必要となる波長を効率的に扱うための技術である。
波長分割多重方式で伝送するWDM装置は、S帯、C帯、L帯という主に3つの光の伝送波長帯を扱う。WDM装置1台当たり、最大で100以上の波長を扱える。ローカル面はともかく、各ローカル面からの光信号が集中するコア面では、波長が重複する問題が多発することになる。波長が重複した場合、エンド・ツー・エンドの光パスが作れなくなり、別のファイバーを増設するなどの措置が必要となる。
そこで鍵を握るのが波長帯変換技術だ。コア面で波長が重ならないように、Ph-EXで適切な波長帯に変換する。
「異なるファイバー種別でのクロスコネクトや波長重複を回避する波長帯変換できる点がPh-EXの特徴」(NWサービスシステム研究所 ネットワーク伝送基盤P トランスポートネットワークG 主任研究員の関剛志氏)である。
波長帯変換技術自体は、NTT以外の事業者も研究を進めている。たとえば、富士通は2018年、もっとも使用頻度が高いC帯から、異なる帯域に変換する全光一括波長変換システムを開発した。
同システムは、主に局舎やデータセンター間の数10kmの中距離通信を想定している。動作原理は、まず変換したい信号(C帯)に2つの励起光を加え、波長が混在した信号をつくる。非線形光学媒質にこの信号を通すことで、新たな波長帯域(L帯など)の光信号が生じ、波長帯が移動される。光ファイバーで伝送後、再び波長変換器に通してC帯に戻す。同社によれば、このシステムの使用により、同一の光ファイバーの伝送帯域を3~10倍に増やせるとする。
広帯域を増幅する光アンプも開発
APNでC帯以外の伝送帯域を活用していくと、幅広い伝送帯域に対応した光増幅器が必要になる。NTTは2021年1月、従来機器よりも2倍以上広い光伝送帯域を増幅できる「光パラメトリック増幅中継器」を開発したと発表した。
光パラメトリック増幅中継器は10.25THz幅という幅広い伝送帯域を増幅できる。従来の光増幅器で増幅できる伝送帯域が約4THz幅程度であり、広帯域への対応が課題になっていた。新たに開発した光パラメトリック増幅中継機では、C帯のみならず、L帯やS帯など、複数の帯域の信号を一括して増幅できるようになる。
さらに入力のWDM信号の波長数の急な増減といった不連続的な変化に対し、出力信号のひずみが小さいという特徴も持つ。光パラメトリック増幅は応答速度がフェムト†(f)秒オーダーと極めて速いためだ。APNでは、光ファイバー内の波長数をフレキシブルに変化させる必要がある。今回開発した技術によって実現に近づいた形だ。Ph-EXなどの光ノードや、伝送路の光ファイバーの経路内への設置を想定している。
ムダなく波長を割り当てる
波長変換で波長の重複を防いだとしても、現状では供給可能な波長数に限度がある。そこでNTTは、大規模ネットワークにおいて光パスに波長を効率的に割り当てることで、使用波長数を減らす研究にも取り組んでいる。
例として、5本の光パスにそれぞれ波長を割り当てることを考える。パターン1は光パスの順番に波長を割り当て、パターン2は使用波長数を最少化するように工夫して割り当てる。結果として前者は合計4波長を必要とするが、後者は1波長少ない3波長で済む。
実際のネットワークを想定したシミュレーションでも、結果の差は歴然である。波長割り当てに工夫しなかった場合よりも、1つの光パスを設定するたびに割り当て方を逐次整理した場合の方が、使用波長数を25%程度削減できたという。
光ネットワークにおいて波長は物理的な資源であり、効率よく使いまわさなければならない。光パスに対して順番に波長を割り当てるのではなく、需要を予測しながら計画的に行う。
こうした波長割り当てのアルゴリズムは、複数の最適化技術を組み合わせながら構築しているとする。