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 本特集では第1回から第4回までを「基礎編」と位置付け、アジャイル開発とウオーターフォール型開発の特性を比較しながら、アジャイル開発の経験が少ない日本企業が組織や文化を大きく変革せずにSoR(System of Record)領域の業務システムのアジャイル開発を成功させるうえで、理解しておきたい基礎的なポイントを解説した。特集の第5回からの第9回までは「実践編」と位置づけ、実際のアジャイル開発プロジェクトを運営する現場で必要となる項目に焦点を当てて、より詳細に掘り下げて解説していく。

 実践編の第1回となる今回は、プロジェクトの企画段階において注意したい7つのポイントを解説する。経験上、いずれもやりがちで、し損じればプロジェクトの失敗に直結する内容だ。

 アジャイル開発に限らずどのようなプロジェクトでも、企画段階での検討やステークホルダー(プロジェクトに関わる利害関係者)との合意形成が不十分なままではその後のプロジェクトのかじ取りが困難になる。一度与えてしまった誤解を解くには当初の説明の何倍もの時間と労力が必要となるからだ。

 大切なのは、開発の開始前に、ポイントを絞って検討と合意を積み上げていくことである。それでは7つのポイントを見ていこう。

ポイント1:「アジャイル開発の理解」は相手により濃淡を付ける

 ポイントの1つ目はアジャイル開発の「理解」に関するものだ。

 基礎編の第1回でも述べたがアジャイル開発にはまだ誤解も多い。そうしたなかで、アジャイル開発プロジェクトの最初の難関は、全てのステークホルダーにアジャイル開発を理解してもらうことと考える人が多いことだ。全員から理解を得る難しさの前に、アジャイル開発の採用を諦めてしまった人もいるだろう。

 ただ実際には、全ステークホルダーからアジャイルについて完全な理解を得る必要はない。肝は相手に合わせて濃淡を付けた効率的な説明にある。

 ステークホルダーの中でも、システム開発や組織変革に興味がある人にはアジャイル開発を理解してもらいやすいものの、アジャイル開発に期待し過ぎていたり誤解したりしている人も多い。システム開発の興味や理解がそれほどでもない人にとっては、アジャイル開発はまだなじみが薄い考え方であり、聞きなれない専門用語も多いため、断片的な説明で十分に理解してもらうのは難しい。

 だからと言って、経営層を含む全ステークホルダーにアジャイル開発の研修を受けてもらうことは、最初の一歩としてはハードルが高過ぎる。さらに言えば、企画段階では、特に事業部門の人にとって、システム開発の手法がウオーターフォール型開発かアジャイル開発かは、興味の対象外であることのほうが多い。

 一方、実際にアジャイル開発プロジェクトを推進したり開発を担当したりする「アジャイルチーム」のメンバーには、アジャイル開発の考え方はもちろん、進め方を具体的に理解してもらう必要がある。技術者の中には、アジャイル開発は「設計書をつくらない」「計画を立てない」と誤解している人も一定数いる。チーム組成の段階で、イテレーションの取り組み方やチームのアウトプットなど細かな点も考え方を合わせておく必要がある。

 具体的にはどうすればよいのか。鍵を握るのが、プロジェクトの代表者としてプロダクトの価値を最大化することの結果に責任を持つ「プロダクトオーナー(PO)」や多忙なPOを支援して調整役やリーダー役を担う「代理プロダクトオーナー(PPO)」である。