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 大きな進歩を遂げて活用が広がる人工知能(AI)。これまで数年の周期で「ブーム」と「冬の時代」を繰り返し、今まさにブームである春の真っただ中だ。本特集では、世界的名著「ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環」(白揚社)の著者、ダグラス・ホフスタッターのまな弟子が「AIの春」について4回にわたってお届けする。第3回はコンピューターの指数関数的進歩に基づく「シンギュラリティ(技術的特異点)」の予測や、人間レベルのAIを実現するための「脳のリバースエンジニアリング」について解説する。

シンギュラリティ

 レイ・カーツワイルはAI分野の長年にわたる有力な楽観主義者だ。MITでマーヴィン・ミンスキーの教え子だったカーツワイルは、発明家として輝かしい経歴を収めてきた。世界初の文章音声読み上げ機や、世界最高レベルのシンセサイザーも彼の発明だ。

 こうした発明でのカーツワイルの貢献を称えて、1999年にはビル・クリントン大統領からアメリカ国家技術賞が授与されている。

 それにもかかわらず、カーツワイルは発明ではなく、未来学者としての予測で最もよく知られるようになった。

 そのなかでも最も注目されているのはシンギュラリティ(訳注:「技術的特異点」ともいう)と名づけられた概念で、それは「技術的変化の速度があまりに大きくなり、その影響があまりに重大になることで、人間の生活が後戻りできないほど変化する未来のある時期」というものだ原注1

 「特異点(シンギュラリティ)」という言葉そのものは前からあるが、カーツワイルはこの言葉を「類まれな意味を持つ……特異な出来事」、とりわけ「人間の歴史の構造を破壊しかねない出来事」という意味で使っている原注2。カーツワイルにとってこの特異な出来事とは、AIが人間の知能を超えるときだ。

 カーツワイルの発想に大きな刺激を与えたのは、数学者I・J・グッドの「知能の爆発」の可能性についての考察で、それは次のようなものだ。

「どんな賢い人間のあらゆる知的活動を、そのレベルをもはるかに超えてこなせる機械を『超知能機械』と呼ぶことにする。機械をつくりだすことはそうした知的な活動のひとつであるゆえ、超知能機械はさらに優れた機械をつくりだせる。そうした流れで『知能の爆発』が起こるのは明白であり、その結果人間の知能は機械に大きく引き離されることになる原注3

 また、カーツワイルは数学者でSF作家でもあるヴァーナー・ヴィンジの影響も受けている。

 ヴィンジは「人間の知能が進化するには何百万年もかかった。私たちはそれと同じ進歩をそれよりもずっとわずかな期間で実現する方法を考え出すだろう。私たちはもうすぐ、自分たちよりもはるかに高度な知能をつくりだすだろう。それが実現するとき、人間の歴史はある種の特異点に到達する……そして、世界は私たちの理解をはるかに超えるものとなる」という事象が間近に迫っていると信じていた原注4

 この「知能の爆発」を出発点としたカーツワイルの未来予測は、AIからナノテクノロジー、そして仮想現実(バーチャルリアリティー)や「脳のアップロード」へと、SF色を強めていく。

 しかも、カーツワイルはそのすべての予測を、カレンダーを見てはデルフォイの神託を授けるような穏やかで確信に満ちた語り口で、具体的な年代を指し示すという調子で行っている。