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 大きな進歩を遂げて活用が広がる人工知能(AI)。これまで数年の周期で「ブーム」と「冬の時代」を繰り返し、今まさにブームである春の真っただ中だ。本特集では、世界的名著「ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環」(白揚社)の著者、ダグラス・ホフスタッターのまな弟子が「AIの春」について4回にわたってお届けする。第4回は「シンギュラリティ」に関する懐疑派と支持派の議論と、両者によって2029年末までに行われる「賭け」を紹介する。

シンギュラリティに対する懐疑派と支持派

 レイ・カーツワイルの著作『スピリチュアル・マシーン』(2001年、翔泳社)と『ポスト・ヒューマン誕生』(2007年、NHK出版)への反応は、「熱烈な支持」「懐疑的、否定的」という両極端なものに分かれているようだ。

 カーツワイルの本を読んだときの私の感想は後者だった(それは今でもそうだ)。彼の過剰なまでの指数曲線への依存や、脳のリバースエンジニアリングについての議論には説得力がまったくないように思えたのだ。

 確かに、ディープ・ブルーはチェスでカスパロフに勝ったが、それ以外の大半の領域ではAIは人間のレベルにはるかに劣っていたではないか。ほんの20~30年のうちにAIが私たち人間と同じレベルに到達するというカーツワイルの予測は、私にとってはとんでもなく楽天的に思えた。

 私の知り合いの大半も、同様に懐疑的だ。ジャーナリストのモーリーン・ダウドによるある記事では、AI分野の主流派の見方が的確に捉えられている。

 なんでも、ダウドがスタンフォード大学の高名なAI研究者アンドリュー・エンの前でカーツワイルの名前を出したところ、エンはあきれたような表情で天井を見上げ、「私はカーツワイルのあのシンギュラリティの本を読むたびに、自然とこんな顔つきになってしまうんです」と言ったそうだ原注1

 一方、カーツワイルの考えを支持する人も多い。彼の著作の大半はベストセラーになり、一流の新聞や雑誌でも高く評価されている。『タイム』誌はシンギュラリティについて、「これは決して突拍子もない説ではない。地球の生命の未来についての重要な仮説なのだ」と評している原注2

 カーツワイルの思想は、技術の指数関数的な進歩は社会のすべての問題を解決する手段になると信じられることが多いテクノロジー業界に、とりわけ大きな影響をもたらした。

 カーツワイルはグーグルで技術部門長を務めると同時に、シンギュラリティ大学(SU)の共同設立者(もうひとりの設立者は未来学者仲間で起業家でもあるピーター・ディアマンディス)でもある。

 SUは「超人間主義」のシンクタンクでもあり、スタートアップ企業を支援するインキュベーターでもあり、ときにはテクノロジー業界のエリートたちの「サマーキャンプ」でもある。

 SUが公式に掲げている同大学の使命は、「リーダーたちに教育、ひらめき、力を与えることによって、彼らが人類の大いなる挑戦に指数関数的に進歩している技術を活用して取り組めるようにする」ことだ原注3

 この大学はグーグルが一部の費用を負担している。ラリー・ペイジ(グーグルの共同創業者)はSU設立初期からの支援者であり、同大学のプログラムで頻繁に講演を行っている。ほかの大手テクノロジー企業数社も、スポンサーに加わっている。