かつての日本の住宅において「畳」は当たり前の存在だった。伝統的な産業として、畳を作る職人を近所で目にする機会も少なくなかった。しかしフローリングの増加で和室が減り、畳の国内生産量は大きく減少した。農林水産省によると、1996年には2694万枚だった畳表の国内生産量は減少を続けており、2019年には250万枚まで落ち込んだ。
伝統産業は斜陽産業になりつつある。当然、畳を扱うビジネスは厳しい状況が続く。そんな中でも自社のできる範囲でDX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使して畳販売ビジネスを拡大させている企業がある。大阪市に本社を持つTATAMISER(タタミゼ)だ。畳は1枚1万円ほどの価格帯で、同社の販売累計枚数は2020年6月で6万枚を超えた。コロナ禍で業績が伸び悩む企業が多い中、海外への販売を伸ばしている。「2020年の海外売上高は2019年の2倍のペースで伸びている」(TATAMISERの淡路光彦社長)。
TATAMISERの特徴は、ネットで畳の注文を受け、その家に合った形やサイズの畳を作製して販売することだ。色や柄は数十種類から選べるほか、素材もい草だけでなく和紙素材や樹脂製などから選択可能だ。形も「長方形でなく斜めでも、穴が開いた形でもオーダーメードで作製している」(淡路社長)。
淡路社長が同社を立ち上げたのは2015年。創業後しばらくは順調だったが、ホームセンターで販売される安価な畳などの影響もあり、売り上げの維持が難しくなっていた。
転機が訪れたのは2016~17年ごろ。新たな収益の柱を考える中で、中小企業基盤整備機構の支援事業としてシンガポールやニューヨークで自社製品を展示する機会を得た。これがきっかけとなり、自社製品の販売サイトに海外からの注文が徐々に舞い込むようになった。
当時、淡路社長が驚いたのは注文単価だった。日本で1万円ほどの畳であっても、送料や関税などを含めると海外での購入価格は3万円ほどになる。それでも平気で数十万円分の畳を買う顧客がいたのだ。淡路社長はこのとき「海外販売に可能性を感じた」という。