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 注文が多い地域はニューヨークやシンガポールなど海外の都市部だ。淡路氏は「富裕層が多い地域には日本の文化への関心が高く、自宅に和室を造りたい人が増えているのでは」と分析する。とはいえ、海外向けのECサイトを用意して販売を始めればすぐにうまくいくほど簡単ではない。TATAMISERなりのDXが成功の秘訣になっている。

 その一つが英語などの「言葉の壁を越える」対応だ。英語はあまり得意ではないという淡路氏だが、言葉の壁が販売のネックにならないように工夫している。

畳の素材のサンプル(出所:TATAMISER)
畳の素材のサンプル(出所:TATAMISER)
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 まず海外からの注文は自社サイトで受けるようにしている。問い合わせや細かいやり取りも電話はせず、メールを使う。英語で会話をしなくて済むようにするためだ。メールの文面は無料の翻訳サイトや、複雑な場合は有料のクラウド翻訳サービスを使うなどして日本語にしている。「何度か有料の翻訳サービスを使ううちに英語文面のサンプルが増え、最近は自力で対応できるようになってきている」(淡路氏)

 商品説明も英語でシンプルに短く説明しており、サイトでは部屋に畳を敷いた状況をイメージしやすいよう、施工例の写真を数多く配置している。最近ではあつらえで造った自慢の和室の写真を顧客が送ってくれるケースも増えている。それらの写真は顧客の許可を得て「インスタグラム」や「ピンタレスト」といった画像を多く掲載できるSNS(交流サイト)に掲載して情報発信している。

 海外への情報発信は効果を見せており、最近ではドバイから複数の見積もり依頼があった。「新たに建設するホテルのコンペで当社の畳が指定されているということだった」(淡路氏)。海外の売上比率は毎年上がっており、2020年は売り上げの30%以上が海外からの注文になった。

 TATAMISERが海外販売を伸ばせているのは、IT活用だけが理由ではない。数人と少ない社員でできるだけ時間とコストをかけずビジネスを展開するため、実務のムダやムラを徹底的に排除している点も見逃せないポイントだ。

 例えば同社は電話での注文受け付けもしているが、外部委託したコールセンターでいったん対応してもらい、後ほど折り返すようにしている。ECサイトはシンプルな構成にしているが、そうしたなかでも「天然のい草」の香りを知らない海外顧客向けに、い草で作製した畳は独特の香りがすることや、購入前にサンプルで香りを確かめられることを詳しく明記。こうした海外向けのノウハウを駆使し、購入後の返品などを未然に防いでいる。

 社内で使う業務システムは、米Claris International(クラリスインターナショナル)のデータベースソフト「Claris FileMaker」で自作している。自社オフィスもインキュベーション向けの場所を借りているなどコスト削減にも余念がない。ITとコスト削減の両輪が同社の成長を支えている。