ブラシにせっけんをつけると濃密でもっちりとした泡が立ち、手が届きにくい背中もほどよい固さのブラシの毛で心地よく体を洗える――。実はこのブラシ、「熊野筆」で有名な広島県の職人により、化粧筆と同じ素材や製法で1本ずつ作られている。
肌触りが良いことで知られる熊野筆の技術を注ぎ込んだボディーブラシ。こんな触れ込みでヒットを続けているのが、大阪府松原市に本社を置く村岸産業だ。村岸産業が手掛けたこのボディーブラシは「熊野筆ROTUNDAボディブラシ」。一般的なボディーブラシは1000円ほどでも買えるが、熊野筆ROTUNDAボディブラシは1本1万円以上と高い。それでも2020年4月の発売以来、販売本数は6500本、売り上げは7000万円を超える人気商品になった。
創業90年超の老舗、中国製との競争で苦境に
村岸産業は1929年の創業から90年を超える歴史を持つ老舗企業で、化粧はけや化粧雑貨の販売事業から始まった。書道用の筆を製造していた熊野に早くから化粧筆の製造を持ちかけた企業でもある。自社ブランドに加え、化粧品メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)やドラッグストアへの販売も多く手掛けていた。現在の村岸直子社長は4代目だ。
そんな同社がなぜボディーブラシの開発に乗り出したのか。それは大手化粧品メーカーの下請けやドラッグストア向け販売という不安定な経営から抜け出すためだった。これまで国産が多かった化粧筆だが、「8年ほど前から安価な中国製が多く入ってくるようになり、販売量が目に見えて減ってきた」(村岸社長)。100円ショップでも化粧筆が売られるようになり、規模の小さい企業が価格競争についていくのは難しく、経営は厳しい状況になりつつあった。
販売先を増やそうと楽天市場やAmazonといったECサイトにも出店した。高級な熊野筆のニーズがあり、1日で600万円も売り上げるなど大きく成功したときもあったが、またも立ちはだかったのが価格競争だった。「セールに出す影響もあり、平均客単価が5000円から2000円に落ち込んだ」(村岸社長)という。このままではじり貧になる。新しい柱を探していた同社の転機となったのは、地元銀行から紹介を受けたクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」を運営するマクアケとの出会いだった。