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大手リース会社、三井住友ファイナンス&リースは2020年度から2022年度までの中期経営計画の中で、自社が目指す姿の1つに「デジタル先進企業」を掲げている。ファイナンスやリースに関連して新たな価値をもたらす新サービスを生み出して提供するためだ。社内で進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトは30種類に上る。今回は一連のDX推進体制を取り上げる。

 三井住友ファイナンス&リース(SMFL)における社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)関連プロジェクトは、2020年11月の時点で30種類に上る。2019年1月時点では8種類だったので、2年間で急速に増えた。それにもかかわらずSMFLではPoC(概念実証)の段階でDXプロジェクトが頓挫する「PoCどまり」はないという。

 DXプロジェクトの中には、本特集の第2回で取り上げたAI(人工知能)を組み込んだOCR(光学的文字認識)である「AI OCR」の業務適用や、第1回で取り上げた小口リース契約の電子化などがある。これまでにDXプロジェクトに関わった社員はのべ約630人。3000人ほどいる全社員のうち2割を占めるようになった。

 SMFLは全社的なDX推進組織である「イノベーションPT(プロジェクトチーム)」の中で、DXプロジェクトを推進している。もともとは2017年4月、当時グループ会社だったSMFLキャピタルで生まれた組織体だ。SMFLキャピタルは米ゼネラル・エレクトリック(GE)から買収した会社で、2019年1月に旧SMFLと合併した。合併後もイノベーションPTの仕組みは存続させて、DXを推進してきた。

 SMFLが数多くのDXプロジェクトを進められる理由の1つを、SMFLでイノベーションPTのリーダーを務める川名洋平クオリティ室室長は「DXをスケールアウトさせるために、現場の業務担当者を巻き込んで自律的に進めてもらっている」からだと説明する。

 「DXで今までにないサービスを作っていく主役は、顧客との接点を持つ業務現場の担当者だ。業務担当者が高いモチベーションでDXに取り組んでもらえるように、様々な形で支援している」(川名室長)という。

シンプルなスタート条件を設けて支援体制を整備

 SMFLにおけるDXプロジェクトが「PoCどまり」で終わらない理由は大きく3つある。「DXを始めやすくするルールの設定」「内製できる技術の目利き集団の存在」「最後まで走りきる伴走役の存在」だ。

三井住友ファイナンス&リースが講じるDXプロジェクトの推進体制の特徴
主な特徴概要
DXを始めやすくするルールの設定誰のためのサービスなのか、どんな課題を解決したいのかが明確になったらDXプロジェクトを開始してよいとのルールを設ける。企画書を精緻にまとめなければ始められない、といった状況を回避する
内製できる技術の目利き集団AIやWeb開発、センサーをはじめとするデジタル技術の専門家を擁するデジタル開発室のメンバーがDXプロジェクトに参画。デジタル技術の適用領域の見極めやモックアップの開発などを支援
最後まで走りきる伴走役業務改革などのプロジェクト推進経験者を擁するクオリティ室のメンバーがDXプロジェクトに参画。業務要件の整理やプロジェクト進行中に出てくる課題の解決などを支援

 DXを始めやすくするルールとは「誰のためのサービスなのか」と「どんな課題を解決したいのか」の2つが明確になったらDXプロジェクトをスタートしてよい、だ。「精緻にまとめられた企画書がなければDXプロジェクトは始められない」といった懸念を払拭するために、ルールを極力シンプルにした。

 プロジェクト開始に当たって予算を確保しやすくする工夫も凝らす。具体的には全社的な組織であるイノベーションPTとして予算枠を確保し、その枠から各DXプロジェクトの運営費を割り当てている。プロジェクトを立ち上げるたびに予算を確保する仕組みだと、承認手続きなどの手間がかかり、迅速に進められないからだ。あるDXプロジェクトで余った予算を他のDXプロジェクトに割り振るといった柔軟な対応も可能という。

 DXプロジェクトを進める業務担当者を手厚く支援する体制も整えた。SMFL社内には「デジタル開発室」「クオリティ室」というDXの支援部署があり、その部署の担当者がイノベーションPTを通して業務担当者を支援している。

内製チームがPoCを担う

 デジタル開発室は「内製できる技術の目利き集団」だ。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、センサーなど様々なデジタル技術の専門家が在籍する。2020年11月の時点で24人のメンバーからなり、中途採用のエンジニアが少なくないという。

 このデジタル開発室がPoCを担う。「AIやセンサーなど常に最新のデジタル技術を探索している。新しい技術を見つけたらユーザーの協力を得てモックアップを作って試し、業務やビジネスにどう適用できるか見極めている」(川名室長)という。

 DXプロジェクトを開始すると、デジタル開発室のメンバーも参画してデジタルサービスに関するシステムを内製する。「外部に発注する場合と違って、社内のメンバーが開発するので始めやすい。業務担当者とゴールを共有することで、よりよい解決策を提案できる」(川名室長)。

 かつてAI OCRを業務に適用するあるDXプロジェクトでは、AI関連技術を持つ外部ベンダーが加わったことがあった。しかし、読み取り精度が業務適用で必要なレベルに達していないとの課題に直面した。するとデジタル開発室に所属するAIに精通したメンバーが工夫を凝らし、外部ベンダーよりも高い精度を実現した。さらに「読み取り結果が確認しやすくなる画面も開発する」といった機動的な開発も実現した。