東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の1・2号機共用排気筒。あの日、放射性物質を含む水蒸気を排出、拡散し、日本の広い範囲に放射能汚染被害を引き起した原発事故の象徴的存在だったが、2020年5月に上半分約60m分が撤去された。重さ40トンにもなる遠隔操縦工事ロボットを開発し、高層ビルの30階に相当する120mの高さまでクレーンで吊るして、解体作業を行った。大手も参加したコンペを勝ち抜いてこの難工事を担ったのが、地元企業の地元企業エイブル(福島県大熊町)だ。
1992年設立のエイブルは資本金2000万円、従業員数は約200人、売上高が約96億円(2019年7月実績)。だが、10年前は原子力発電所を支える、東京電力の優秀な下請け工事会社の1つに過ぎなかった。それがなぜ、自力で大型ロボットまで開発できる技術力を備え、大手をコンペで退ける元請け企業に変貌できたのか。そこには原発事故で大きく運命を変えた故郷への思いがある。福島第1原発の廃炉措置を長く取材するノンフィクション作家 山根一眞氏が、エイブルの挑戦をリポートする。
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