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 東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の1・2号機共用排気筒(高さ120m)。原発事故の象徴的存在だったこの排気筒の上半分約60m分が2020年5月に無事撤去された。大手も参加したコンペを勝ち抜いてこの難工事を担ったのが、従業員約200人の小さな地元企業のエイブル(福島県大熊町)だ。1992年に活動を始めたエイブルは10年前まで、原子力発電所を支える東京電力の優秀な下請け工事会社の1つにすぎなかった。それがなぜ、自力で大型ロボットまで開発できる技術力を備え、大手をコンペで退ける企業に変貌できたのか。福島第1原発の廃炉を長く取材するノンフィクション作家 山根一眞氏が、廃炉作業に欠かせない企業の1つである知られざる地元企業エイブルの仕事をリポートする。

 新型コロナウイルスの国内での感染が広がり始め、日本中が緊張状態に陥っていた2020年5月1日。福島第1原発でうれしい知らせがあった。午後1時7分、1・2号機排気筒の上部に「蓋」をして、最頂部から高さ59mまでの解体撤去工事が終わったのだ。最初のブロックの解体撤去が始まってからちょうど9カ月目の達成だった。59mが残ったが、この高さであれば重機を使えば地上から解体できる。それより上、120mまでの撤去は極めて難しい工事だった。この高さでの遠隔操作による解体作業は誰も経験していない仕事だったからだ。

撤去前の1・2号機排気筒
撤去前の1・2号機排気筒
19年2月15日。(出所:東京電力ホールディングス)
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排気筒模型で手順を説明するエイブル第一工事部長の岡井勇さん
排気筒模型で手順を説明するエイブル第一工事部長の岡井勇さん
(写真:山根 一眞)
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放射性物質を放出した高線量の“煙突”

 1Fの1・2号機排気筒は、東日本大震災直後に1号機の格納容器の蒸気圧を下げる「ベント」で使われた。この排気筒から拡散した放射性物質が広範囲の放射能汚染を起こした。それ故に1Fの原子力災害の象徴となった施設の1つだ。

* 構造・形状は「煙突」に近いが、煙を出すのではなく排気の設備であるため、「排気筒」を正式名称としている。

 この排気筒は円筒状の「筒身」だけで自立する形ではなく、筒身をトラス構造の鉄塔が囲み支える構造をしている。鉄塔部分には東日本大震災時の揺れが原因と思われる破断箇所が見つかっており、今後の地震による揺れや台風の襲来などで変形、倒壊するリスクがあった。

 もし排気筒が倒壊したら廃炉措置の大きな妨げになる。解体撤去は優先順位の高い重要課題だったが、問題は排気筒下部や足元、排気筒内に大量の放射性物質が残留していたこと。放射線量が高すぎるため、現場に人が何日も携わる工事は不可能で、遠隔無人工事が必須だった。

 排気筒の高さ120mは高層ビルの30階に相当する。そんな巨大施設の遠隔無人による解体は廃炉作業を担う大手各社にとっても難しい課題だった。そんな中、ロボットを短期間で独自開発して解体撤去できるとする提案を出し、工事を受注したのがエイブルだった。同社は先に、排気筒の足元に設置されたドレンサンプピット(排気筒に入った雨水をためる設備)の補修工事を、自社開発した2種のロボットを使い、遠隔無人で達成していた。この場所も線量が極めて高かったが、その成功により経験と技術蓄積、チーム力なら可能という自信を蓄え、東京電力からも一定の評価を得ていた。

 そして実際に、重量40~50tという巨大な解体工事用ロボット2種を、受注からわずか8カ月後の18年8月に作りあげてしまった。考えられない迅速さだった。このロボットを、国内では最大級という750tクラスの大型のクローラークレーンで地上からの高さ120mにつるし上げて、切断操作を実行するのだ。

120mの排気筒と750tクラスの大型クローラークレーンのイメージ
120mの排気筒と750tクラスの大型クローラークレーンのイメージ
(構成:山根 一眞)
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