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 2020年5月に無事完了した東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の1・2号機共用排気筒の上部約60mの撤去工事。この難工事を担った従業員約200人の小さな地元企業のエイブル(福島県大熊町)の奮闘を追う本連載。わずか8カ月で解体用ロボットを自社開発し、大型クレーンで排気筒の頂部まで持ち上げ遠隔作業する独創的な手法を提案。工事開始後に見舞われた予想外のさまざまなトラブルに、創意工夫を凝らして対応していく。福島第1原発の廃炉措置を長く取材するノンフィクション作家 山根一眞氏が、廃炉作業に欠かせない企業の1つとなった知られざる地元企業エイブルの仕事をリポートする。

 高さ120mの1Fの1・2号機排気筒は遠くからもその存在が目立った。「遠くからあの高い煙突を見るたびに3.11を思い出す」という地元の人は少なくない。東日本大震災による原子力災害のシンボル的な存在だったのだ。もちろん1Fの廃炉への道はまだまだ遠いものの、「廃炉が少しずつだが進んでいることを示すためにも、早く1・2号機排気筒を解体・撤去したい」という思いは、福島で生まれ育った多くのエイブル社員たちの間でも大きかったという。

1・2号機排気筒の解体・撤去工事では膨大な資料が公開されてきた
1・2号機排気筒の解体・撤去工事では膨大な資料が公開されてきた
(出所:東京電力ホールディングス)
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 極めて困難といわれていた1・2号機排気筒の無人での解体工事に取り組んだエイブル。開始直前に東京電力が用意した大型クレーンの高さ不足が判明するなどで延期されていた解体・撤去をやっと始まったのは、2019年8月1日だった。

東京電力と密接に協力

 この解体作業について東京電力ホールディングス(東京電力HD)は膨大な量の広報資料を発表してきた。東日本大震災に伴う原発事故発生以降、1Fに関してとてつもない情報が公開されてはいるが、1・2号機排気筒の解体・撤去工事はわずか9カ月間のプロジェクトにもかかわらず、細いワイヤが切れたトラブルでさえ、その原因や背景、対策などまさに微に入り細をうがつ報告を続けている。

 エイブル第一工事部長の岡井勇さんは、公開資料の多さについてこう語っている。「大手メーカーは立派な仕事をされていますが、仕事のノウハウに関する情報の公開は少ない印象です。東京電力への報告も限られているため、広報データも少ないのでしょう。しかしエイブルはドレンサンプピットの仕事でも、1・2号機排気筒の解体・撤去でも、東京電力と一体になり、良いディスカッションをしながら取り組み、可能な限りの情報を東京電力に報告してきました。公開資料が多かったのはそれが生きたのだと思います」

 1・2号機排気筒解体工事の分厚い公開資料には、今後の廃炉工事で参考になる経験を超えて、一般のものづくりに応用できそうな「なるほど!」と思わせるノウハウが満載されている。作業中に直面した「問題」の原因解明プロセスであり、現場の議論によって生み出された思いがけない解決手法も目立つ。理屈ではない「現場」で生まれた知恵だけに、私は読んでいて何度も目からウロコが落ちる思いがした。