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 2020年5月に無事完了した東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の1・2号機共用排気筒の上部約60mの撤去工事。この難工事を担った従業員約200人の小さな地元企業のエイブル(福島県大熊町)の奮闘を追う本連載。工事開始後に見舞われた予想外のさまざまなトラブルに、創意工夫を凝らして対応していくなか、4番目のブロックを切断する過程で最大の難所を迎える。福島第1原発の廃炉を長く取材するノンフィクション作家 山根一眞氏が、廃炉作業に欠かせない企業の1つである知られざる地元企業エイブルの仕事をリポートする。

 1・2号機排気筒解体・撤去工事は、19年8月1日に始まり20年5月1日まで9カ月間を要した。公開されている解体作業記録を、時系列で整理して作業の進捗状況を図解するとこうなる。

1・2号機排気筒をブロックに分けて解体・撤去
1・2号機排気筒をブロックに分けて解体・撤去
(出所:東京電力ホールディングス)
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1・2号機排気筒解体・撤去工事の進捗状況
1・2号機排気筒解体・撤去工事の進捗状況
(東京電力ホールディングスとエイブルの資料を基に山根 一眞が作製)
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 このカレンダーを俯瞰(ふかん)すると、筒身の切断作業は19年12月までの5カ月間にわずか4ブロックしか完了していないと分かる。台風による休止が3度あったものの、平均すると1カ月に1ブロックも解体できていない。一方、大型クローラークレーンの年次点検のため作業が休止した20年2月以降、3月と4月の2カ月間には中断なく9ブロックの解体が一気に進んでいる。1週間に1ブロック以上のペースだ。

 ここからもこの工事の最初の5カ月間が、トラブルとその克服の連続だったことがうかがえるのだ。

中古バス改造の管制室から遠隔操作

 この工事の遠隔操作は、エイブルが中古のバスを購入して作った管制室で行っていた。作業のたびに遠隔操作拠点を設けるのは大変だ。また作業によっては線量が高い場所を避けて移動する必要があることから、これもエイブルが考え出したアイデアだった。

福島県広野町のエイブル広野事務所を出発する遠隔操作バス
福島県広野町のエイブル広野事務所を出発する遠隔操作バス
(出所:エイブル)
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遠隔操作バスに描かれた絵
遠隔操作バスに描かれた絵
エイブル社員の子供たちが「パパ頑張ってね」という思いを込めて描いた絵で飾られた。(写真:山根 一眞)
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遠隔操作バス内の様子
遠隔操作バス内の様子
モニターだけを頼りに排気筒解体用ロボットを操作した。せいぜい数百m先とはいえ、この遠隔操作は小惑星探査機「はやぶさ2」のオペレーションに通じるものがある。(写真:山根 一眞)
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 バス内のチームは、チップソーの切削音を聴きながら切断が順調かどうかを時々刻々チェックしていたという。回転の負荷が大きくなるとモーターの電流電圧が変化するので過負荷を避ける対応も続けていた。電流電圧のモニターから機器の作動状態を知る手法は、小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」の遠隔操縦と共通する。

 刃のかみ込みの危険が生じれば、クレーンのオペレーターにケーブルをごくわずかに上げてもらい、切断面の口を開き気味にした。その上げ方も手前側、奥側と状況に応じて操作を依頼。なにしろ高さ100m以上の場所をカメラの眼を頼りに数cmの精度で操作するという、誰もやったことがない離れ業なのだ。

 東京電力ホールディングスの廃炉推進カンパニープレジデント、小野明さんが「廃炉のオペレーションは放射線量が高く人が直接手を下せないというところが、宇宙での機器操作と似ている。『はやぶさ2』は3億kmかなたで、こちらはすぐそこという違いはあるが……」と語っていたのを思い出した。

はやぶさ2の運用室
はやぶさ2の運用室
18年6月27日。(出所:JAXA)
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