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 東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の1・2号機共用排気筒(高さ120m)。原発事故の象徴的存在だったこの排気筒の上半分約60m分が2020年5月に無事撤去された。この難工事を担ったのが、従業員約200人の小さな地元企業のエイブル(福島県大熊町)だ。エイブルは2台の大型ロボットを自力で開発、120mの高さにまでクレーンで持ち上げて遠隔操作で排気筒を解体するプランを案出して大手をコンペで退けた。福島第1原発の廃炉を長く取材するノンフィクション作家 山根一眞氏が、廃炉作業に欠かせない企業の1つである知られざる地元企業エイブルの仕事をリポートする。

 いよいよ前代未聞の1・2号機排気筒の解体・撤去工事が始まる――。そんなタイミングの2019年5月23日、とんでもないニュースが入ってきた。ロボットをつり下げる大型クローラークレーンの先端が120mの排気筒の先端に届かないと判明し、工事開始が3カ月遅れることになったのだ。原因は東京電力が用意したクレーンの先端部分の仕様がおそらく利用者によって改変されていたため。結果としてわずか約1.3m、長さが足りなかった。

オンラインインタビューで語る東京電力の小林靖さん
オンラインインタビューで語る東京電力の小林靖さん
建築の専門家だ。(出所:東京電力ホールディングス)
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 どう解決すればいいのか。地盤をかさ上げする案もあったが、幸いにもクレーンを排気筒に少しだけ近づけて、ブームの角度を上げれば排気筒の120mの最頂部に届くと計算で分かった。ただし別の問題があった。

 東京電力側のプロジェクトマネジャー、小林靖さんはこう説明する。「きわめて重量のあるクレーンなので設置場所は地盤の補強が必要です。もともと予定していた設置場所は1・2号機の原子炉建屋の作業のため地盤強化済みでした。しかしクレーンを予定外だった場所に移動するため、新たに地盤を固める土木工事の必要が生じた。そのせいで作業開始が3カ月遅れとなったのです。われわれが用意したクレーンに問題があったわけですから、エイブルには申し訳ないことをしました」

 想定や設計と現場が異なるのは珍しい話ではない。だがのっけからこんな問題が起こるとは誰も思っていなかっただろう。こうして排気筒の解体・撤去工事は、3カ月遅れの19年8月1日にようやく始まった。

3m刻みにチップソーで切断

 解体作業は、「筒身」とそれを囲み支えている「鉄塔」それぞれを、2種のロボットを使い分けて切断する計画だ。高さおよそ3mずつのブロックに区切り、それぞれを切断しては上から順番に地上に下ろす作業を繰り返す。切断で生じるブロックの数は、筒身は16ブロック、鉄塔は7ブロックになる。ただし、筒身や鉄塔の構造は場所によって形状や付帯物が異なるのでそれぞれの作業は同じではない。つまりこの工事は、いわば23のプロジェクトといってよかった。

工事の手順を説明するエイブルの岡井勇さん
工事の手順を説明するエイブルの岡井勇さん
(写真:高橋 航太)
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