「副業を解禁したといっても、実態は渋々、やむを得ず認めたという企業も多い」――。キャリア開発に詳しい法政大学の田中研之輔教授はこう指摘する。そんななかでも副業を積極的に認める企業もある。SCSKやソフトバンク、サイボウズ、ヤフーの4社などだ。
各社の人事担当者は副業が本業にもたらす「メリット」を重視している。副業を通じて社員の主体性や経験値、生産性が高まり、それにより会社全体も成長するとみているからだ。
その先には会社と社員の関係が「従属」から「対等」に変わる未来がある。4社の取り組みを見ていこう。
会社と副業をする社員とが案件を相互に紹介
SCSKは2019年1月から社員が就業時間外に他社で働くことを認める副業制度を導入した。目的の1つは「副業を通じて自社では得られない知見を獲得すること」(加々美充男人事課長)だ。
副業をする社員は2019年に約120人、2020年に約100人と全社員の1%強だ。ただ、新型コロナ禍で副業の内容が様変わりしたという。
2019年には「地域の子どもにスポーツを教える」「コンサートで演奏する」といった趣味の延長線上にある副業が多かったが、2020年はコロナ禍で対面の地域活動やイベントが減ったこともあり、「オンラインでプログラミングを教える」といった本業の専門性を生かす副業が増えたという。
ユニークなのは、SCSKが社員に副業を紹介している点だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)が認知されるにつれて、中小企業からもDX関連の相談が寄せられるようになったが、案件規模があまりに小さくSCSKでは引き受けられないものもある。
そのうちSCSKと利益相反にならない案件を、社員が副業で引き受けるケースが出てきたのだ。「案件規模が小さいとプロジェクトをマネジメントしながらシステム企画から保守運用まで全て1人で担当できる。これは本業では得られにくい経験といえる」(人事課の西口真武氏)。
会社から社員に副業を紹介する流れとは逆の動きも出てきた。基盤サービス事業本部セキュリティサービス部の亀田勇歩さん(35)はサーバーのセキュリティー対策や脆弱性の発見といったサービスを5~6社に副業で提供し、これ以外にも単発でセキュリティーに関する相談を受けることもある。
副業先の人たちとはセキュリティーに関する勉強会で知り合うケースが多く、亀田さん自身はセキュリティーに関する専門性をさらに高めるために副業を始めた。会社として引き受けるには規模の小さな案件を、利益相反にならないように会社に申請したうえで個人として引き受けているという。
そうしたなか、「副業先にSCSKの脆弱性診断サービスを紹介し、SCSKのビジネスとして成立したものも数件ある」(亀田さん)。会社と副業をする社員との間で案件がやり取りされ、双方が経験と収益を上げられる関係ができてきた好例といえるだろう。