トヨタ自動車が燃料電池(FC)技術の普及に本腰を入れている。2021年2月26日、定格出力60kWと80kWのFCモジュールを開発し、同年春以降に外販を始めると発表した(図1、2)。豊田自動織機も同日、定格出力8kWの小型FCモジュールの開発を発表。開発中の同24kWと50kWを加え、両社の計5種類であらゆる用途への適用を実現する。世界的な環境規制の強化を追い風に、FCシステムを基盤にした「プラットフォーマー」を目指す姿勢が鮮明になってきた。
各FCモジュールには共通の基幹部品を使う。20年12月に刷新した乗用FCV「MIRAI(ミライ)」のシステムを活用する。トヨタが「第2世代」と呼ぶ同システムは、FCスタックの性能を先代品よりも高性能化した。セル出力密度を3.5kW/Lから5.4kW/Lに高め、セル数を370個から330個に減らした。体積を約3割抑え、約4割の軽量化に成功した。
「FCシステムは“搭載すること”自体のハードルが高かった」――。こう明かすのは、トヨタZEVファクトリーFC製品開発部部長の吉田耕平氏だ。
大きく重いFCシステムでは、搭載空間に限りがある乗用車や小型トラックには載せにくい。他部品の搭載空間まで奪いかねない。小さく軽いFCシステムを実現できれば、搭載レイアウトの自由度を高められる。車両の燃費・電費を向上したり、積載空間を確保できたりする。
セル出力密度を高めた小さく軽い第2世代のFCシステムによって、搭載のハードルを引き下げ、外販に向けた準備を整えた。開発したFCモジュールは、空気供給、水素供給、冷却、電力制御など、関連部品をFCスタックと組み合わせて1つの箱に収めている(図3)。箱の素材は検討中だがアルミ板金が有力である。顧客の要望によっては箱の中身だけを供給する。
トヨタが開発した定格出力60kWと80kWのFCモジュールは対応電圧の範囲が400~750Vと広い。FC専用の昇圧コンバーターを内蔵したことで、モーター、インバーター、電池パックといった電動車両の基幹部品に接続しやすくした。豊田自動織機の小型FCモジュールの対応電圧は48Vであり、DC-DCコンバーターを使って電気を出力する。
組み合わせて大型化
定格出力が最も小さい8kWのFCモジュールは、全長542×全幅610×全高440mmで、質量は113kgである。より高出力の同60kWと80kWでは、縦型と横型を用意して多様なレイアウトに対応しやすくした。縦型は、全長890×全幅630×全高690mmで、質量は約250kg。横型は、全長1270×全幅630×全高410mmで、質量約240kgである。
豊田自動織機の小型FCモジュールは、建設機械や農業機械、定置発電機などへの適用を想定する。工場や商業施設、自治体への供給を目指す。トヨタの大型FCモジュールは、乗用車やバス、トラックに加え、鉄道や船舶といったモビリティーへの適用を想定する。豊田自動織機と同じく定置発電機にも使う。
顧客が求める出力に応じて、各モジュールを組み合わせて大型化も可能にした。出力別に5種類のFCモジュールを展開することは、組み合わせの選択肢を広げる効果がある。
FCモジュール外販に対する市場の期待値は高まっている。「トヨタからFCを仕入れることも選択肢の1つ」――。こう話すのは、競合であるドイツDaimler(ダイムラー)傘下の三菱ふそうトラック・バス(川崎市)の技術者だ。
また、自治体向けのFCゴミ収集車を手掛けた早稲田大学客員准教授の井原雄人氏は「FCモジュール外販には注目している。量産効果が利くトヨタ製品は費用対効果に優れ、一定以上の信頼性もある」と期待を寄せる。