携帯大手3社の値下げを受け、格安スマホを手掛けるMVNO(仮想移動体通信事業者)間の競争も激しくなってきた。インターネットイニシアティブ(IIJ)がデータ通信量2ギガバイトで月額780円(税抜き、以下同じ)からの新料金を打ち出すと、ソニーネットワークコミュニケーションズも同3ギガバイトで月額720円からの新料金を発表して対抗した。数十円の差でしのぎを削る展開となっている。体力勝負の様相を呈してきた。
総務省によると、MVNOの契約数は2020年9月末時点で2560万件。移動通信市場におけるシェアは13.4%となっている。MVNOの事業者数は1450社。このうち、契約数が3万件以上のMVNOは84社と全体の5.8%にとどまる。大半のMVNOは赤字とみられる。今後は体力勝負となると残るのは大手を中心とした一部だけで、多くは撤退を余儀なくされそうである。総務省は次にどのような施策を打ち出してくるだろうか。
携帯大手の新プランは採算ぎりぎり
MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会のMVNO委員会は2021年1月18日に総務省へ提出した要望書で以下の3点を求めた。(1)データ接続料の低廉化、(2)音声卸料金の低廉化、(3)イコールフッティング(平等な競争条件)を担保する新ルールの整備、である。(1)と(2)についてはこれまで説明した通り、一定の低廉化を実現済み。今後の焦点は(3)だ。MVNO委員会は(3)の案として、スタックテストの実施や設備部門と利用部門の会計分離、接続料算定ルールの精緻化を挙げた。
まずスタックテストとはユーザー料金との関係に基づいた接続料や卸料金の妥当性チェックを指す。携帯大手のオンライン専用プランが接続料や卸料金の水準を下回り、不当な競争を引き起こすものとなっていないか検証すべきだとした。携帯大手は総務省の有識者会議が実施した非公開ヒアリングで「データ接続料や音声卸料金の低廉化でMVNOも同等の料金水準を実現可能」と反論したが、採算はぎりぎりの水準だったもようだ。
携帯大手はなんとか検証をクリアしたとして、次に矛先が向かう可能性があるのは楽天モバイルだ。同社の新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI(アンリミットシックス)」では1回線目を対象に月間データ通信量が1ギガバイト以下の場合は無料とした。「コスト+利潤を明らかに下回る楽天モバイルの新料金を価格圧搾(市場で強い立場にある事業者が原価を下回る価格設定で競争環境をゆがめること)と見なすのかどうか」(有識者)との論点が浮上している。
楽天モバイルは携帯大手3社と異なり、「第二種指定電気通信設備制度」の規制対象となっていない。このため、総務省は同社の新料金に待ったをかけなかったが、「二種指定事業者に限定することなく調査すべきだ」(ソフトバンク)とする不満が競合他社からも出始めた。