菅義偉政権の強い要請を受け、携帯大手から始まった料金下げ競争。思わぬ形で逆風に見舞われたMVNO(仮想移動体通信事業者)だが、悲観する様子はない。MVNO市場は2020年12月末時点で1476社がひしめくレッドオーシャン。厳しい競争は今に始まったことではない。
むしろ携帯大手の値下げで消費者が乗り換えを検討する機運が高まっており、「市場がもう一度活性化するのではないかと期待している」(イオンリテール住居余暇本部イオンモバイルユニットの井原龍二イオンモバイル商品マネージャー)との声は多い。
MVNOも大手を中心に相次ぎ値下げを発表し、好調な滑り出しに成功した事業者もある。2021年2月に「mineo」で新料金「マイピタ」の提供を始めたオプテージ(大阪市)は、開始前の6カ月間の平均に比べ「(2021年2月と3月は)獲得数が2倍程度に拡大した。反響の大きさに驚いている」(オプテージの福留康和モバイル事業戦略部長)と話す。
2021年1月に「y.u mobile」の値下げなどを発表したY.U-mobile(東京・品川)も「キャッシュバックキャンペーンの効果もあり、2021年2月は開通数が(2020年12月以前の単月に比べ)5倍に増えた。携帯大手の値下げを受け、いい意味で(同社サービスが)浸透した」(Y.U-mobileの鹿瀬島礼代表取締役)と手応えを示す。
SIMロックは原則禁止、メールも持ち運びへ
MVNOにとって追い風の要素も多い。総務省はここ数年、ユーザーの乗り換え障壁を徹底的に潰してきた。まず2019年10月施行の改正電気通信事業法で違約金の上限を1100円(税込み、以下同じ)に制限。2020年12月にはMNP(モバイル番号ポータビリティー)ガイドラインを改正し、転出手数料を原則無料(Web)、対面(店頭)や電話は1100円以下としたうえで、転出時における過度の引き留め行為を禁じた(2021年4月から適用)。
さらに2021年4月2日に意見募集を開始した有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書案では、(1)eSIMの促進、(2)SIMロック解除の一層の促進、(3)キャリアメールの「持ち運び」実現に向けた検討、(4)MNP手続きのさらなる円滑化に向けた検討、などを打ち出した。
SIMカードを差し替えなくてもオンラインで乗り換えられる(1)のeSIMは2021年夏ごろの導入を目指す。(2)のSIMロックは「競争を阻害する効果を有し、購入者の権利を不当に制限する」として、原則禁止まで踏み込んだ。(3)のキャリアメールは携帯大手3社が「@docomo.ne.jp」「@au.com」「@softbank.ne.jp」などのドメインで提供するメールサービスを指し、他社に乗り換え後も継続して使えるようにする。「2022年夏ごろまでには実現することが適当」とした。
(4)のMNPは現状、移転元と移転先の双方で手続きが必要となる「ツーストップ方式」だが、移転先における手続きだけで済む「ワンストップ方式」の早期実現を目指す。「今後2年以内をめどに実施できるよう課題の解決に向けて取り組むことが適当」とした。いずれについても携帯大手が強く反発したが、押し切った。個々の効果はさておき、ユーザーが以前にも増して乗り換えやすくなるのは確実である。