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44件のプロジェクト、費用は8兆円

 プールからの使用済み燃料取り出しと比べて、はるかに難しいのが「燃料デブリの取り出し」である。事故当時、1・2・3号機は運転中で、原子炉内に燃料があった。事故による冷却機能の喪失で、燃料は過熱し、周囲の金属などと共に溶け落ちてしまった。それが冷えて固まったのが燃料デブリである。燃料デブリはさらに圧力容器の底を溶かして突き抜け、一部は格納容器の底に至った*4。1・2・3号機とも、取り出しはまだ始まっていない。現在、格納容器内の調査や、取り出しに向けた設備の開発が並行して進んでいる。

*4 いわゆる「メルトダウン」は燃料が溶融することを、「メルトスルー」はその溶融した燃料が圧力容器をすり抜けることを指す。

 「汚染水対策」「廃棄物対策」「労働環境の向上」も、廃炉措置の大きな柱だ。「廃炉に関するプロジェクトは全部で44件に上る」─。廃炉の総責任者である、東京電力HD常務執行役福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏は、全容をこう説明する。政府の試算によると、福島第1原発の廃炉措置に関わる費用は総額8兆円とみられている*5

*5 公表は2016年12月。事故処理に関わる資金の総額は21.5兆円とされた。廃炉費用の8兆円に、被災者への賠償、除染、中間貯蔵の費用を足し合わせた額である。

2022年に始まる燃料デブリ回収

 こうした前代未聞の廃炉措置の一角を支えているのが、ロボットや稼働機構のある治具などのメカ技術である。前述のように、1・2号機では使用済み燃料の取り出しはまだ始まっていない。19年12月に発表された最新のロードマップによると、27~28年度に1号機、24~26年度に2号機で取り出し作業が始まる見通しだ*6。現在はその準備が進められており、例えば、2号機原子炉建屋のオペレーティングフロアでは、遠隔操作ロボットが放射線量の測定や残置物の片付けといった作業をこなしている。

*6 このロードマップでは、他の目標工程として、2025年内に汚染水の発生量を1日当たり100m3以下に抑制し、28年度内にがれき類の屋外一時保管を解消する、といった内容も示されている。

 既にプールからの燃料取り出しが完了した3号機では燃料集合体のハンドルをつかむ治具が活躍した(図3)。

図3 燃料集合体をつかむ治具
図3 燃料集合体をつかむ治具
3号機の使用済み燃料プールから燃料集合体を取り出す。(出所:東芝エネルギーシステムズ)
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 燃料デブリの取り出しは、まず22年内に2号機から着手し、その規模を拡大していく。具体的には、全長22mのロボットアームが2号機の原子炉格納容器の内部に入り、試験的にデブリを回収する計画だ(図4)。ただし、同じく炉心溶融に至った1・3号機からの燃料デブリ取り出しについて、同ロードマップは時期的な目標を示していない。

図4 燃料デブリ取り出し用ロボットアーム
図4 燃料デブリ取り出し用ロボットアーム
2号機の原子炉格納容器内から燃料デブリを試験的に取り出す。(出所:国際廃炉研究開発機構・三菱重工業・英Veolia Nuclear Solutions)
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 原子炉建屋の外でも廃炉は進む。東京電力HDは20年5月、1・2号機の共用排気筒の上部を切断する作業を終えた。同排気筒は、事故当時、原子炉建屋内にたまった放射性物質を含む水蒸気の排出(ベント)に使われた。解体装置の開発と操作は、地元・福島県の企業が担っている。廃炉の主役は大手重工メーカーだけではない。