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 情報システムの分野で過去10年の間に起きた最大の変化は、クラウドへの移行である。それによってバックアップも大きく変化した。無尽蔵ともいえるストレージや安価なオフサイトを確保できるようになった一方、オンプレミスとは全く異なる発想でバックアップの仕組みをクラウド上に構築する必要も生じている。

 バックアップのクラウド移行を考える際には2つの観点がある。1つはオンプレミスで運用するシステムのバックアップ先としてパブリッククラウドを利用可能になった点。もう1つはバックアップ対象となるシステムのクラウド移行に伴い、クラウド上におけるバックアップの仕組みが必要になった点だ。

 まずは前者、オンプレミスのバックアップ先としてのクラウド活用について見ていこう。具体的には、パブリッククラウド事業者が提供する「Amazon S3」のような安価で拡張性の高いオブジェクトストレージをバックアップの保存先に選択可能になった。これによってユーザー企業は、従来のバックアップにおける大きな課題であった、バックアップデータを保管するストレージのサイジング(容量設計)に頭を悩まされることがなくなった。

重複排除でクラウドへの転送が軽く

 第2回で取り上げたように、現在主流のバックアップソフトウエアにおいては、バックアップ対象が仮想化プラットフォーム上で運用する仮想マシンのVHD(仮想ハードディスク)ファイルであり、そのデータを「重複排除」しながらコピーするようになった。この仕組みがクラウドへのバックアップと相性が良い。

 バックアップソフトはVHDファイルを1度コピーした後は、ファイルの中で変更があったブロックだけをバックアップする。また仮想化プラットフォームで複数台の仮想マシンを運用する場合は、仮想マシン間で共通するファイルやブロックは1個だけバックアップする。こうした重複排除の仕組みがあるため、オンプレミスのシステムをクラウドにフル(完全)バックアップした後は、変更があったブロックは1度だけクラウドに転送される。現在の重複排除バックアップは日常的なデータ転送量が小さくて済むため、クラウドの利用に向いている。

 一方で課題もある。バックアップの保存先をクラウドにすると、リストア(復旧)の時間が長くなってしまうことだ。オンプレミスのデータが消失した場合、ネットワーク経由でクラウドから全データを転送しなければならないためだ。

クラウドに直接バックアップする構成
クラウドに直接バックアップする構成
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 バックアップ事情に詳しい、NEC AIプラットフォーム事業部の谷口敏彦マネージャーは、これには解決策が2つあると指摘する。

バックアップデータをオンプレミスに

 1つはオンプレミスにバックアップサーバーとバックアップ用のストレージを確保し、パブリッククラウドにはバックアップデータのコピーを転送する構成だ。クラウドは「2次バックアップ」、つまりはオンプレミスが全滅した場合の保険と割り切り、通常のシステム障害にはオンプレミスのバックアップで対応する。2次バックアップする際にも重複排除の仕組みが適用されるため、クラウドへのデータ転送量は少ない。もちろんこの構成でも、クラウドにあるバックアップデータからリストアする際には長い時間がかかってしまう。

バックアップデータをオンプレミスとクラウドに置く構成
バックアップデータをオンプレミスとクラウドに置く構成
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バックアップサーバーを2重化

 もう1つはオンプレミスとクラウドの両方でバックアップサーバーを運用し、両方でバックアップデータも保管する構成だ。業務サーバーからデータを取得するのはオンプレミスにあるバックアップサーバーで、クラウドのバックアップサーバーには変更があった差分データだけを転送する。重複排除の仕組みが適用されるため、クラウドへのデータ転送量は少ない。

バックアップサーバーをオンプレミスとクラウドに置く構成
バックアップサーバーをオンプレミスとクラウドに置く構成
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 この構成のポイントは、オンプレミスが全滅した場合に、クラウドにあるバックアップサーバーを使ってクラウド上にシステムをリストアできる点だ。バックアップサーバーは「vSphare」などオンプレミスで使われる仮想マシン形式を、「Amazon EC2」のAMI(Amazon Machine Images)といったクラウドの仮想マシン形式に変換する機能を備える。これらの機能を使って、クラウド上にシステムを再構築する。クラウドからオンプレミスにデータを書き戻す必要がないため、リストア時間は短い。