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 新型コロナウイルス感染症の騒ぎが収束後、世界の製造業は生き残りを懸けた激しい競争時代に突入する。日本企業が競争力を維持し、より高めるには、今後のものづくりを担う若手技術者の実力向上が不可欠だ。そのためにはまず、課題を認識する必要がある。今の日本の製造業が抱える最大の課題は何か。大手部品メーカー出身の実務経験が豊富なベテランに、各専門分野の見地からものづくり現場の課題を語ってもらう。

座談会のメンバー
座談会のメンバー
さまざまな企業に開発設計や教育支援を行っているワールドテック(名古屋市)に在籍。大手部品メーカーにおいて製品の開発設計から量産、トラブル対応までさまざまな実務経験を持つ。豊富な経験と知見を基に、コンサルタントとして活躍中。(イラスト:穐山 里実)
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皆さんは日々、さまざまな日本企業でものづくりに関する業務や社員教育の指導・支援を行っています。豊富な知見を持つ上に、客観視できる立場にもあります。その視点から見て、今のものづくりの現場が抱える課題は何だと思いますか。

品質不具合が減らない理由

寺倉氏(設計開発の視点)
寺倉氏(設計開発の視点)

 企業規模や職域により、それぞれ異なる課題があると思います。それらを総合して“最大公約数”的な共通の課題を抽出すると、「品質」への対応力が挙げられます。

 5年ほど前に遡ってそこから考えてみると、品質はほとんど良くなっていません。落ちているとまでは言いませんが、決して高まってはいない。その1つの証拠として、自動車のリコール件数が挙げられます。ここ5年間、大まかに言うと稼働日1日当たり1件のリコールが発生している状態が続いています。これは日本の製造業にとって、ものすごく大きな課題です。

佐藤氏(生産技術の視点)
佐藤氏(生産技術の視点)

 なぜリコール(品質不具合)が減らないのかを生産技術の視点から考えると、大きな理由の1つは「ブラックボックス」が増えているからだと思います。

 準大手以上の規模の会社を見てみると、彼らはいわゆる「システム製品」を造っています。昔は生産技術を含めて自ら手掛ける「自前主義」が多かった。ところが、今は外注する業務が大半で、そこかしこにサプライチェーンがたくさんできている。品質不具合の原因を調べると、実は自社の設計部分ではなく、サプライヤー(部品・材料メーカー)の部分にあるというケースが意外に多い。

 このように、現在のシステム製品は数多くのサプライヤーから部品や材料を納品してもらい、それらを使ってアセンブリー(組み立て)を行って、ソフトウエアを載せて造っていることが多い。すると、確かに設計仕様は出しているものの、実は「中身が分からない」という企業や技術者が多いのではないでしょうか。特に若手技術者の中には、ブラックボックスになっているにもかかわらず、品質が良いと思い込んでしまう傾向があるように感じます。実際、「中身はどうなっているのですか。あなたの担当は生産技術だから分かるでしょう?」と社内外から聞かれても、答えられない場合が目に付きます。

寺倉氏(設計開発の視点)
寺倉氏(設計開発の視点)

 実は、プレスや樹脂成形、切削、ダイカスト、鍛造などといった要素技術の専門企業である中小企業には、ブラックボックス化の心配はあまりありません。ブラックボックス化の問題は、規模の大きな企業ほど深刻になりつつあります。なぜなら、ものを実際に造る現場が少なくなっているからです。専門家が1人、2人しかおらず、ものづくりが形だけになってしまっているケースも増えています。実際、要素技術でビジネスを行っている中小企業はプライドを持って業務を遂行しており、外部から技術支援を求める例を私はあまり聞いたことがありません。