10年を経過した福島第1原子力発電所の廃炉プロジェクト。その技術的な意味、プロジェクトの特徴、地元企業との協力について総責任者である福島第一廃炉推進カンパニーの小野明氏が語った。聞き手はノンフィクション作家の山根一眞氏。
福島第1原子力発電所(1F)の廃炉工事は、明治維新以降に限っても最大のプロジェクトだと思いますが、その指揮官としては夜眠れないことも多いのでは?
小野:気になって頭から離れないことは少なくありません。計画通りに進まない問題が次々と出て悩まされます。2020年5月1日にやっと完了した1・2号機共有排気筒の撤去工事はその1つでしたね。
排気筒の撤去工事は、協力企業であるエイブル(福島県大熊町)と東京電力の担当者に詳しく聞きました。工事開始直前に大型工事用ロボットをつり下げるクレーンの高さが足りないと分かったり、やっと工事を開始したものの排気筒を切断するチップソーの歯のかみ込みが発生したり……。そういうトラブルが起こるたびに「東電は何をやっているんだ」という内容の厳しい報道が出ていました。
小野:大型クレーン車の高さが計画より1mほど短かったのは、工事開始前にエイブルへ渡した東京電力保有の大型クレーン車の情報が間違っていたからでした。クレーン車メーカーから得たデータを提供したのですが、20数年前の購入後、実車は一部を改造していたため製造図面と違っていたと後に分かりました。あのトラブルの原因は東京電力にあり、エイブルに多大な迷惑をかけて我々が大きく反省するところです。
東京電力側は建築の専門家を中心にプロジェクトを組んだのですが、今回得た教訓は、機械や電気、通信など多分野の専門家が一体とならなければプロジェクトが効率的に回らないこと。例えば、エイブルが開発した工事用ロボットは無線で遠隔操作しますが、電波が途絶えて作業が中断する問題が発生しました。想定していなかった問題で、無線の周波数帯が限られていたのが原因と分かりました。こういうトラブルに迅速に対応するためにも、プロジェクトには電気や通信の専門家も入っていなければならないと気づかされました。