10年を経過した福島第1原子力発電所(1F)の廃炉プロジェクトの総責任者である福島第一廃炉推進カンパニーの小野明氏に話を聞く。さまざまな最新技術の使い分けを図っており、海外には核兵器関連で進んだ技術がある一方、国内技術では小惑星探査など、宇宙空間での遠隔操作技術が参考になると話す小野氏。実は小惑星探査機「はやぶさ」シリーズの開発をリードした技術者と思いがけないつながりがあった。聞き手はノンフィクション作家、山根一眞氏。
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による福島第1原子力発電所(1F)での廃炉措置への影響はありますか?
小野:徹底した対策をとっているため、幸い作業面に影響は出ていません。社員や作業員の一部で感染者が出てはいますが、発電所構内でクラスターが発生するような状況にはなっていません。しかし、大きな影響を受けているのが英国で製造中のロボットアームです。2号機の燃料デブリの試験的な取り出しに使うのですが、英国での新型コロナ感染拡大の余波で、工場の稼働率が3分の1以下になってしまい、燃料デブリの試験的な取り出しのスケジュールが大幅に遅れています。
燃料デブリ取り出しのロボットアームを英国で製造しているんですか?
小野:三菱重工業のもとで、Veolia Nuclear Solutions(ヴェオリアニュークリアソリューションズ、旧Oxford Technology、通称OTL、親会社はフランスOrano)が製造しています。1Fの廃炉措置では海外と日本の技術を用途などに応じて使い分けており、その海外メーカ一の1つがOTLです。新型コロナのため作業の遅れが続いているため試験などを日本で行う検討を始めており、2号機の燃料デブリの試験的な取り出しは何とか1年程度の遅れで開始できると考えています。
そのロボットアームの大きさはどれくらい?
小野:およそ22m先の物をつかむイメージで、その先でネジも回せます。元をたどると、このロボットアームはヨーロッパのトカマク型熱核融合炉の試験装置の保守用に開発された技術です。線量が高い環境での作業のため、保守用のアーム技術が多々発達したのです。もっとも1Fの2号機はアームを入れる口がかなり狭いため、このアームをどのようにセッティングして操作するかを、かなり苦労して検討しています。
米国技術の導入はありますか?
小野:あります。予定している1つは、汚染水を処理したあとの濃縮廃液(放射性スラッジ)の除去工程への技術導入です。遠隔操作なのでやはりロボットアームの技術に近いのですが、米国企業の技術を使おうと考えています。米国のハンフォード核貯蔵所、英国のセラフィールド原子力施設など軍事用の核兵器施設では多岐にわたる放射性廃棄物を扱うため、さまざまな遠隔ロボットアーム技術を持っています。フランスのラ・アーグ再処理工場で使われている遠隔操作の技術も非常に進んでいます。