さまざまな新技術を必要とする東京電力福島第1原子力発電所(1F、イチエフ)の廃炉プロジェクト。その第一線で働きたいと考える若い世代が東京電力の入社志望者に増えているという。長期にわたる取り組みになるだけに、次の世代への期待は大きい。廃炉の総責任者、福島第一廃炉推進カンパニープレジデントの小野明氏にノンフィクション作家の山根一眞氏が聞くインタビューの最終回。
2年ほど前に楢葉遠隔技術開発センター(日本原子力研究開発機構、福島県楢葉町)を取材し記事を書いた際、福島第1原子力発電所の廃炉を想定したシミュレーション設備や映像技術などが集積しているのに感動しました。1Fのモックアップ施設も幾つかありましたが、その1つがペデスタル(原子炉圧力容器を支える土台)です。何と、そのペデスタルのモックアップを使って高等工業専門学校(高専)の生徒たちが1Fのデブリ回収を想定したロボット競技「廃炉創造ロボコン」を行っていると聞きびっくりしました。地元高専の先生の発想・指導だそうですね。YouTubeで公開されている「廃炉創造ロボコンダイジェスト版」を見たら、すごい発想の、見たことがないデザインのロボットが福島だけでなく全国から集まっていて圧倒されました。
小野:廃炉創造ロボコンは、5回目を迎えています*。2020年は新型コロナウイルス感染症拡大防止の一環としてオンラインでのビデオ審査になりましたが、まさにあれは実作業を想定してものです。たとえ将来1Fの廃炉に携わらなくても、明確に困難な課題に挑戦したロボットを創作し、操作したという経験は学生たちの将来に大きく生きてくると思います。
1Fの廃炉には若いパワーの参加が大事になります。
小野:実は東京電力に入社して1Fの廃炉に取り組みたいという若い世代が増えているんです。廃炉の技術を調べ、ロボット技術や遠隔操作技術だけでなく、分析関係などでも新しいチャレンジできると知って入社を志望する人が増えており、うれしく思っています。
宇宙から地球に降り注いでいる極めて高い透過力をもつ素粒子、ミュー粒子(ミューオン)を使い原子炉内部の透視を行う試みが15年から始まりました。正直、半信半疑だったんですが、まるでX線写真のようにデブリの像を捉えるのに成功したのはびっくり。いたく敬服しました。
小野:名古屋大学エコトピア科学研究所と東芝の共同研究による、画期的な分析手法です。後にあの技術を使ってエジプトのピラミッド内に大きな空間を発見するという成果も生まれました。1Fをそういった先進技術活用の実験フィールドとして利用してもらっているのはありがたく思います。