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 電子機器や半導体の分解・分析を通じて、商品(もの)の歴史をたどり、アートとテクノロジーの視点から様々なことを文章と音声番組(Webラジオ)で紹介する新コラム「分解・半導体から見るアーテジー(ART2EGY)の世界」。2回目となる今回は、米Apple(アップル)とソニーのアクティブノイズキャンセル機能搭載ワイヤレスヘッドホンをテーマにした後編をお届けします。前編では、「AirPods Max」が高価な理由や「WH-1000XM4」のコスト抑制の工夫、そして両製品のデザインの特徴などについて取り上げました(図1)。

図1 左が「AirPods Max」、右が「WH-1000XM4」
図1 左が「AirPods Max」、右が「WH-1000XM4」
(出所:アップルとソニー)
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 後編では、主に両製品が搭載するオーディオ(音響)向け半導体部品から見えてくるアップルとソニーの事業戦略の違いについて、テカナリエの小池さんと清水さんにお話いただきます。

 オーディオに関して、入り口から出口まで「自前主義」にこだわるのがアップルです。その象徴がBluetooth通信とオーディオコーデック機能を搭載した独自半導体部品「H1」(図2)。2019年に同社が発売した第2世代のワイヤレスイヤホン「AirPods」から採用を始め、AirPods Maxでは左右のヘッドホンユニットそれぞれにH1チップを搭載しています(図3)。H1の効果か、小池さんいわく「非常につながりやすい」とのこと。

図2 AirPods Maxに実装されているH1
図2 AirPods Maxに実装されているH1
(出所:テカナリエ)
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図3 AirPods MaxとAirPods Proの主要な半導体部品の比較
図3 AirPods MaxとAirPods Proの主要な半導体部品の比較
(出所:テカナリエ)
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 一方ソニーはBluetooth通信やオーディオコーデックに使う半導体部品を外部から調達しています(図4)。同社がこだわるのはオーディオの「出口」部分。具体的には、オーディオアンプ機能やノイズキャンセル機能のICに、ソニーが独自設計したものを利用しているそうです(図5)。ソニーは従来から、この方針を貫いています(図6)。

図4 AirPods MaxとWH-1000XM4の主要な半導体部品の比較
図4 AirPods MaxとWH-1000XM4の主要な半導体部品の比較
(出所:テカナリエ)
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図5  WH-1000XM4に搭載されたソニーのノイズキャンセル機能用のIC
図5  WH-1000XM4に搭載されたソニーのノイズキャンセル機能用のIC
(出所:テカナリエ)
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図6  WH-1000XM4と従来モデル「WH-1000XM3」の主要な半導体部品の比較
図6  WH-1000XM4と従来モデル「WH-1000XM3」の主要な半導体部品の比較
(出所:テカナリエ)
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 アップルも、以前は半導体部品をすべて外部から調達していました。その後、自社製品の差異化のために、アプリケーションプロセッサーといった主要な半導体部品を自前で設計・開発したものを採用するようになりました。その流れにあるのがH1チップです。

 どこまで自前で作り(Make)、どこまで外部から調達(Buy)するか。「Make or Buy」の境を決めるのは非常に難しいと清水さんは指摘します。小池さんはこの点に関して、「芸術的観点で言うと、外部に頼んでしまうとつい『妥協したな』、と思ってしまう。他人が作ったものは責任取れないですから」と女優・アーティストとしての目線で厳しく指摘。

 ただし、自前で作るとコストがかかります。アップルが採る戦略は、一度作った半導体部品を複数の製品に搭載すること。H1チップの場合、アップルの複数の音響製品に搭載して、量産効果によってコスト削減を図っています。例えば2019年発売のAirPodsやAirPods Proだけでなく、「Beats(ビーツ)」ブランドのヘッドホン製品にもH1チップを採用しています。ここに、アップルの「強みがある」(清水さん)わけです。

 ヘッドホン製品の分解・分析から見えてきたアップルとソニーの製品作りに対する違い。詳細はぜひ番組でお楽しみください。