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 日本政府が2020年末に決定した温暖化ガスの排出量ゼロを目指す「グリーン成長戦略」に基づき、人の移動において脱炭素化を図る交通システム「スマート交通」へのシフトが進みそうだ。スマート交通では、自家用車への依存度を下げるため、電動化や自動化した公共交通機関の利用を促す。短距離の移動手段には自転車を推奨し、走りやすい道路整備にも取り組む。足元では新型コロナウイルスの感染リスクを抑える取り組みも急務となる。

 スマート交通の実現に向けて、政府は次世代移動サービス「MaaS(Mobility as a Service、マース)」に期待を寄せる(図1)。MaaSは、多様なモビリティーをサービスでつないで移動価値を提供するもの。飛行機や鉄道による長距離移動、バスやタクシーでの中距離移動、小型モビリティーや自転車による短距離移動など、これらを1つのシステムで切れ目なく使えるようにするのが理想だ。

図1 トヨタ自動車は「e-Palette」をMaaS専用車として開発した
図1 トヨタ自動車は「e-Palette」をMaaS専用車として開発した
20年12月のオンライン発表会の様子。登壇したのは同社コネクティッドカンパニーPresidentの山本圭司氏。(出所:トヨタ自動車)
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 16年にサービスを始めたフィンランドの首都ヘルシンキのアプリ「Whim(ウィム)」は、自家用車の利用率を4割から2割に減らしたという。バスなどの公共交通機関やタクシー、カーシェアリング、自転車といった複数のモビリティーに移動手段を振り分け、それらをアプリ経由で定額利用できるようにした。移動手段が分散すれば新型コロナの感染対策になり、アプリで一元管理するため足跡もたどりやすい。

 調査会社の富士経済(東京・中央)の予測では、MaaSの国内市場は30年に2.8兆円を超える。現在、MaaSの運営者側には多彩な顔ぶれが並ぶ。JR東日本や小田急電鉄など交通各社から、自動車メーカー、不動産企業、IT大手企業、自治体などまでが日本各地で試験サービスを進めている。フィンランドのWhimは複数国・都市でサービスを提供しており、日本では三井不動産と手を組んで東京都や千葉県で実証実験に取り組んでいる。

MaaS専用車で競う

 スマート交通が本格化し、MaaSの普及によって自家用車の利用が減れば、それだけ新車販売台数も縮小する。この危機感からか、トヨタ自動車(以下、トヨタ)はソフトバンクと共同でモビリティーサービス会社のMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ、東京・千代田)を設立。19年2月に事業を開始した。同社はトヨタのコネクテッドカー情報基盤とソフトバンクの通信技術を連携させる。現在、相乗り可能なバスやタクシーの予約管理サービスを日本各地で試験している。

 トヨタは、システムによるMaaS運営だけではなく専用車両の開発にも積極的だ。「e-Palette」と呼ぶ車両で、ステアリングホイールがなく自動運転で走る電気自動車(EV)である。複数の車格を用意し、人の移動や物流、物販などの様々な移動サービス用途で使う。単眼カメラやLiDAR(レーザーレーダー)で周辺を監視し、高精度の3次元地図の情報と組み合わせて経路を外れることなく走る。

 特定の環境・条件下において、自動運転に必要な「認知」「判断」「操作」は全てシステムが担う。米自動車技術会(SAE)が定める「レベル4」相当の自動運転車である。ただ、現時点ではシステムの異常発生に備えて監視員が搭乗する。

* 自動運転レベルは、運転自動化なしの「レベル0」~完全運転自動化の「レベル5」まで6段階に分けられる。「レベル4」はそのうち上から2番目の技術水準である。

 21年7~8月に開催予定の「東京オリンピック〔第32回オリンピック競技大会(2020/東京)〕」および「東京パラリンピック(東京2020パラリンピック競技大会)」で実用化し、参加選手や大会関係者を運ぶ見通しだ。その後、「日本の複数地域で商用化を目指す」(トヨタ)。