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 2050年カーボンニュートラル実現の成否を大きく左右する再生可能エネルギー。日本はその比率を17%(19年)から約50~60%(50年)にまで高めることを狙う。その最大の鍵を握るのが「浮体式洋上風力発電」だ。

 浮体式洋上風力発電は、海上に浮かせた浮体式海洋構造物(船舶、以下浮体)に乗せた風車を使って電力を得るもの。浮体が漂流しないように、係留ロープで海底につなぎとめている。国土が狭く森林率の高い日本では太陽光発電と陸上風力発電の飛躍的な向上は見込めない。だが、日本は排他的経済水域(EEZ)の面積が世界6位。かつ、遠浅が少ない日本周辺では、海底に基礎を造って風車を固定設置する「着床式洋上風力発電」よりも、浮体式洋上風力発電の方が適している。事実、浮体式洋上風力発電の導入可能面積は、着床式洋上風力発電のそれの約5倍もある*1

浮体式洋上風力発電設備の外観
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浮体式洋上風力発電設備の外観
(出所:仏IDEOL)

*1 日本近海で離岸距離30km以内かつ水深200m以内の海域を対象に、年平均風速を7m/s以上として、社会的制約条件は考慮せず、水深50m以内を着床式、水深50~200mを浮体式とした場合。〔参考文献:長井ほか「わが国沿岸海域における洋上風力発電の期待可採量」,『風力エネルギー』, Vol.34, No.1(2009)〕

戸田建設が国プロで実用化

 日本政府は20年12月、「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」で、洋上風力発電を40年までに最大45GW導入するという目標を掲げた。達成に向けて浮体式洋上風力発電のコストを技術開発や量産化によって大幅に低減しなくてはならないと指摘している。国からの技術開発の後押しを受け、浮体式洋上風力発電を実用化した事例は既に存在する。

政府による洋上風力発電の導入目標
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政府による洋上風力発電の導入目標
浮体式洋上風力発電の普及を促進し、40年までに45GWと世界第3位の市場創出を目指す。(出所:経済産業省)

 戸田建設は07年に1/100スケールの浮体式洋上風力発電の実験を始め、09年には1/10スケールの試験機を長崎県・佐世保港内に設置した。10年に環境省の実証事業として受託すると開発が加速し、12年6月以降は長崎県五島市沖で、1/2スケールとなる100kW級の試験機の運用を開始。16年に国内で初めて浮体式洋上風力発電を実用化し、2MW級の商用運転を続けている。

戸田建設の浮体式洋上風力発電システム
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戸田建設の浮体式洋上風力発電システム
長崎県五島市沖に設置し、実証事業を行っている。発電設備の形状・寸法は、海中の最も深い所から風車翼(ブレード)の先端までの全長が172m。海面に浮いて見える部分の高さは96m。円筒部の最大直径は7.8mで、総質量は約3400tである。風力タービンは日立製作所製。(出所:戸田建設)

 商用運転では、戸田建設の子会社である五島フローティングウィンドパワー(長崎県五島市)が発電事業を運営している。つまり同社は、浮体式洋上風力発電システムの開発だけではなく発電事業も手掛けているというわけだ。