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東証のシステム障害を検証する調査委員会を率い、報告書をまとめた久保利英明弁護士。障害原因は東証のシステム構築力の弱さと、証券会社に対する東証の立場の弱さだと分析する。原発事故があった10年前と変わらず、「起こってから初めて考える」のが日本の弱点だと喝破する。

(聞き手=浅川 直輝、外薗 祐理子)

久保利 英明(くぼり・ひであき)氏
久保利 英明(くぼり・ひであき)氏
1944年生まれ。1967年司法試験合格、1968年東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録、森綜合法律事務所入所。1998年日比谷パーク法律事務所を開設。2001年度第二東京弁護士会会長、日本弁護士連合会副会長。現在、日本取引所グループ社外取締役、コインチェック社外取締役なども務める。(写真:的野 弘路)
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東証障害独立調査委「調査報告書」の概要

 2020年10月1日に東京証券取引所の売買システム「arrowhead(アローヘッド)」で起こったシステム障害を巡って、親会社の日本取引所グループ(JPX)の独立社外取締役で構成する調査委員会(委員長:久保利英明弁護士)は2020年11月30日に調査報告書を発表した。NAS(Network Attached Storage)の物理故障とバックアップ機器への切り替え失敗という技術的な障害原因では富士通の責任が大きいとした一方で、終日売買停止に追い込まれた原因については東証の「コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)」に数々の不備があったと指摘した。

東京証券取引所のシステム障害後、独立社外取締役による調査委員会を立ち上げ、2020年11月30日に調査報告書を公表しました。

 システム障害の翌日、2020年10月2日に開催された日本取引所グループ(JPX)のリスクポリシー委員会で、委員長の私が調査委員会立ち上げを提案しました。リスクポリシー委員会から幸田真音さん(作家)と米田壮さん(元警察庁長官)に入ってもらいました。

 加えて、JPXの独立社外取締役でもある遠藤信博さん(NEC会長)にも入ってもらいました。ITベンダーである富士通の問題を取り上げる以上、IT産業に精通した人を入れるべきだと考えたからです。

 遠藤さんはもしかしたら若干ためらったかもしれません。しかしIT産業と証券取引所とは密接な関係があり、検証に当たってIT産業の知見は欠かせません。証券取引所はITの装置産業と言っても過言ではないからです。

東証が自由に制度設計できなかった

 終日売買停止という大規模障害に至った根本的な要因は2つあります。1つは東証のシステム構築力が弱くて、富士通に丸投げしていたこと。

 もう1つは、東証が証券会社に強く意見できない体質だったことです。結果として東証は証券会社に対し、トラブルを想定した訓練やシステム対応を十分に要求できていませんでした。

 日本では証券取引所が証券会社をリードしていません。戦後、証券会社を会員とする特別な法人が取引所を設立した経緯から、口には出さないまでも「証券取引所より証券会社のほうが偉い」という意識があるようです。

 東証は金融庁から権限は与えられていますが、そうした経緯もあって自由に制度や規制を設計し、証券会社に守らせることができていなかった。社外取締役としてJPXのマネジメントを監督している立場から言えば、かなり恐ろしいことが起こっていたのです。