「コピー品の街」として世界に広く知られた中国・深圳(シンセン)。この街は今、様々なロボットであふれている。「イノベーション実験都市」という新しい姿の象徴がロボットなのだ。その多くは数カ月以内に姿を消すが、一部で世界を変えるものが出てくるかもしれない。深圳在住の高須正和氏に、同地の“異形のイノベーション”を解説してもらう。(本誌)
深圳では特に、新型コロナウイルスの流行以降、様々なロボットが大量に街にあふれるようになった。その多くは早晩消えていくだろう。しかし、残ったものはPoC(概念実証)として、社会を変えていく第一歩になる可能性がある。それが、「世界の工場」の次のステージとして深圳が目指す実験都市の姿である。
街で遭遇するロボットの一例を紹介しよう。市内中心部の公園では、何やら大きなゴミ箱のようなものが動いている。自動配送ロボットを手掛ける、深圳の企業CANDELAが開発した「走り回るゴミ箱」だ(図1)。現状ではロボットがゴミ箱を載せて走り回っているだけで、ロボットがそばに来たらゴミを入れるのは人間がやる。ビジネスとして収益を期待できなさそうな、実証実験段階のものだ。おそらくロボットからゴミを回収してセンターに運ぶなどの仕組みもできていないだろう。
深圳に本社のある平安銀行の窓口で待っているとロボットが近づいてきて用件を聞く(図2)。中国語の音声解析のレベルは高いため、チャットボット的なやり取りでも窓口を待つ客の要望に答えることはできそうだし、コールセンターにつなげることも可能だ。
広東省名物の飲茶レストランは、かつては湯気を立てる点心を載せたカートが店内を行き交うものだったが、ここ深圳の飲茶レストランでは配膳ロボットが運んでくる(図3)。筆者が入った複数の飲茶レストランでは、日本のレストランにも導入されている中国Keenon Roboticsや、深圳に本社を置く中国Puduのロボットが導入されていた(図4)。
鍋料理を提供する「AI小鍋机器人火鍋レストラン」では、配膳ロボットと天井に設置されたレールを伝って移動するボックスで料理が運ばれてくる(図5)。正直、長続きするとは思えないサービスだが、こうした一発ネタ的なサービスが出ては消えていくのがこの街だ。
こうしたロボットたちの中には、わずか数カ月で見なくなるものも多い。もっと早く姿を消すものもある。イノベーション実験都市の深圳ではこのような「多産多死」が常態化している。それは、高い技術力を持ちながらイノベーションが生まれにくい日本の裏返しとも言える。