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「コピー品の街」として世界に広く知られた中国・深圳(シンセン)。この街は今、様々なロボットであふれている。「イノベーション実験都市」という新しい姿の象徴がロボットなのだ。その多くは数カ月以内に姿を消すが、一部で世界を変えるものが出てくるかもしれない。深圳在住の高須正和氏に、同地の“異形のイノベーション”を解説してもらう。(本誌)

公開イノベーション

 そうしたムーアの法則下にある製造業では、系列で部分最適化して利益を積み上げていく構造よりも、オープンにして自社のメリットをなるべく早く利益に変える産業が育つ。深圳の製造業者に相談をすると、どの会社も「最近請け負った製品」の設計やBOMリスト(部品表)を出してきて、なるべく“アリモノ”をベースに短期で最終製品を作ろうとする。日本では「オープンイノベーション」として特別視されるやり方が常態化していて、むしろクローズドなイノベーションがないのだ

 そうした「公板」(GongBan、設計や部品構成などが再利用される半ば公開されたプリント基板)や「公模」(GongMo, 半ば公開されたプラスチック、転じて金型)は、他の地域の製造業のエコシステムにはないものだ。この裏にあるのは、アイデアを早くお金に変えないと、ムーアの法則でアドバンテージがすぐになくなってしまうという考えだ。

 この産業構造がもたらすオープンさとイノベーションを、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のハードウエア研究者であるバニー・ファン氏は「公開」(GongKai、ゴンカイ)と呼んだ。オープンソースライセンスに基づいたオープンソースソフトウエアの中国語訳は「開源(KaiYuan)」だが、ゴンカイは「結果として共有される知財がオープンソース的なイノベーションを生むが、誰かが意図して作った制度でなく、自然発生的に生まれたもの」である。

 ゴンカイがない世界でも、こうしたことは長い時間をかけて起こる。ソニーのウォークマンはイノベーションだったが、数年後には他社が同じようなものをつくるようになった。深圳のコンピューター製品ではそれが数カ月後に起こる。ひとたびヒット商品が生まれれば、他社がものすごい勢いで追いついてくるし、最初に販売を開始したイノベーターでさえ、製品に搭載したマザーボードをBtoBで外販し、ゴンカイによって短期間でイノベーションを利益に変えようとする(図6)。こうしてLiDAR(Light Detection and Ranging)などロボットに必要なモジュールは、急速にコモディティー化し、価格が下がっていく。

図6 ロボット会社Cityeasyの広告
図6 ロボット会社Cityeasyの広告
ロボット用のマザーボードもBtoBで販売している。数量が見込めれば設計を一部変更したカスタマイズ品の製造も請け負う。Cityeasyのサイトからキャプチャー。(図:Cityeasy)
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 既に世界でトップクラスの地位を獲得した中国製のスマホも、大手メーカーのハイエンド機種は自社開発だが、同じメーカーのミドルレンジ以下の機種は価格性能比に優れた設計をする設計専門会社に外注している。中国Oppo(オッポ)や中国Xiaomi(シャオミ)のようなライバル企業同士のミドル機種が、同じ会社によって設計されていることも多い。すべてはムーアの法則がもたらした産業構造である。

 Xiaomiや、ドローンで約7割の世界シェアを持つとされる中国DJIのように会社が成功して大きくなると、チップの内製化が始まる。それが将来的には系列の構築につながるのかもしれない。一方で、深圳ではチップメーカーや部品メーカーも雨後の竹の子のように誕生している。そうした中小企業もゴンカイを加速する要因になっている。