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オフィスビルや病院、商業施設などを対象にしたメンテナンス業界が“ロボット導入元年”を迎えている。人手不足が深刻な「警備」では、ロボットの導入コストが人件費に見合うようになり、「清掃」では新型コロナウイルスの感染対策が導入の契機となっている。さらに新型コロナは殺菌消毒のニーズも生み出し、移動型ロボットの適用領域を広げている。

 「従来、清掃作業は経営における優先度が低かったが、新型コロナで一気に扉が開いた。感染対策の重要度が高まったことが大きい」。ソフトバンクロボティクス常務執行役員兼CBOの吉田健一氏は、同社の業務用清掃ロボット「Whiz」の販売好調の要因をこう語る(図3)。実際、Whizは19年5月の発売からわずか1年強の20年6月末に累計販売1万台を突破した。それまで「累計数百台」という機種が多かった業務用清掃ロボットの世界では、突出した存在になった。自社で清掃している小売り店、ホテルなどの動きが早く、外部業者に委託しているオフィスビルも導入に動き出しているという。清掃ロボットを導入すればフロアの掃除はロボットに任せ、人間はトイレ掃除や、感染対策としての椅子、手すりの拭き掃除などに専念できる。

図3 ソフトバンクロボティクスの清掃ロボットがブレーク
図3 ソフトバンクロボティクスの清掃ロボットがブレーク
累計販売が1万台を突破した「Whiz」。20年10月には清掃性能を従来比1.6倍に向上したり、清掃ルート作成時に外周ルートを設定すると、内側の清掃ルートを自動で生成する機能を搭載したりした後継機「Whiz i」を発売した。(写真:ソフトバンクロボティクス)
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 業務用清掃ロボットには、ゴミやほこりを吸引する乾式タイプと、床面を洗浄する湿式タイプがある。国内では、小型で取り扱いが容易な前者が主流で、Whizのほかにもアマノや日本信号などが製品を販売している。

 その中で、Whizが成功を収めた要因は複数ある。1つは感染対策への効果を科学的に立証して素早く訴求したこと。同社は熊谷組とオフィスビル清掃の実態調査を実施し、20年4月には、人の手による清掃と比較して空間浮遊菌量を5分の1程度まで減らせると発表した。実は米疾病対策センター(CDC)の研究では、床に広がったウイルスがほこりなどに付着して飛び回り、感染の原因になることが判明している。床掃除は対策の効果があるが、人間の場合はどうしても汚れている部分を中心に掃除するのでムラが出る。その点、ロボットなら床面を漏れなく清掃する。人の手による清掃時の空間浮遊菌量(1m3当たりの数)は2万~3万であるのに対し、HEPAフィルター注1)を搭載したWhizで2~3日清掃した後は4000~6000にまで減ったという。

注1)HEPAはHigh Efficiency Particulate Air Filterのこと。JIS規格で「定格風量で粒径0.3µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有し、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」とされている。なお、空間浮遊菌量が4000~6000個/m3という数字は「とてもきれい」な水準だという。

 2つめはロボットへの清掃ルートのティーチングが現場の作業員でも簡単にできること。初日に作業員がWhizを押して清掃すれば、そのルートを覚えて2日目から自律的に動く。他社製品にはタブレットでのルート作成が必要な機種もあるが、Whizの場合は現場の作業員だけでも扱える。

 利用料金が月額3.5万~4万円で、「それまでの半分以下と破格」(業界関係者)だったのも大きい。また、20年1月から販売に参画したアイリスオーヤマも大きく貢献した。「ホテルや介護施設などに6000~7000台を貸し出して試用してもらった。その多くが有料で利用するようになった」(同社)。 

 21年2月、アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスは合弁会社「アイリスロボティクス」を設立した。新しいサービスロボットの開発や法人向けのロボット販売を手掛ける。取り扱うロボットの1つが、20年10月に発売された後継機「Whiz i」。例えばLED照明など外部機器と連携することで、清掃以外のソリューションを現場に提供する「アイリスエディション」を投入していくという。

 高難易度の建築現場を自律清掃

 建築中のビルなどの現場を自律的に清掃するロボットが登場した。鹿島建設とPreferred Networks(PFN)が21年3月に発表したAI清掃ロボット「raccoon」だ(図4)。共同で開発した、建築現場内をロボットが自律移動するためのシステム「iNoh」を搭載する。首都圏の現場に導入を開始した。 

図4 鹿島建設とPFNが共同開発した建築現場用清掃ロボット
図4 鹿島建設とPFNが共同開発した建築現場用清掃ロボット
「raccoon」はティーチングなしで、自ら建築現場で清掃可能エリアを探索しながら清掃する。操作画面から最短3タッチでコンクリート床面の清掃を開始する。PFNによると、ソフトウエア部分は同社が開発し、センサーの選定も行ったという。(写真:PFN)
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 建築現場は屋内での作業が多く、GNSS(測位衛星システム)による位置計測が使えない。さらに資機材や高所作業車などが置かれ、工事の進捗に応じて状況が変化する。開口部や立ち入り禁止エリアもある。こうした現場で自律移動を実現するには、搭載するセンサー情報からSLAMで自己位置推定と3次元空間マッピングをしつつ、障害物など周辺環境を正確に把握する必要がある。iNohでは、魚眼カメラ、LiDAR、IMU(慣性計測装置)など複数のセンサーを統合するとともに、現場の膨大な画像データを深層学習することで、それらを認識可能にした。

 ロボットが障害物を回避する作業ルートを自動生成するため、マーカーの設置やティーチングが不要で、現場で即座に利用できるという。raccoonは100分の連続稼働で500m2のエリアを清掃できるとしている。