SI事業の変革待ったなし――。システム開発を生業とするシステムインテグレーター(SIer)が主力としてきた受託開発ビジネスの先行きが不透明になっている。「従来型のご用聞きによるシステム開発では立ちいかなくなる」というのが業界全体の共通認識だ。そうした中、大手SIer各社はご用聞きから脱して、ユーザー企業と共に新たな製品やサービスを創出する取り組みを始めている。受託思考を取り払い、真の意味でユーザー企業のITパートナーへと脱皮できるか。SIの「ニューノーマル」を目指す専業各社の今を追う。今回は伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の取り組みを見る。
伊藤忠商事グループのシステムインテグレーター(SIer)である伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)。通信事業者向けのコアネットワークや流通・製造業向けの基幹業務システムの構築などで強みを持つが、顧客企業とのビジネス共創を目的とする拠点「Innovation Space DEJIMA(デジマ)」を2017年に設けるなど、近年DX関連の取り組みに力を入れている。2021年4月には、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関連した新規事業や新サービスの創出を横串で推進する社長直轄の組織「DXビジネス推進事業部」を新設する。
こうした取り組みと並行して、既存ビジネスの変革にも着手している。その1つが、事業ポートフォリオの見直しだ。同社はSIerという事業形態ではあるものの、その事業ポートフォリオは他のSIerとはかなり異なる。2019年度の段階で、売上高にあたる売上収益に占めるアプリケーションの「開発・SI」の割合は22%。残りはネットワーク機器などの「製品販売」と、ハードウエア保守やクラウドといった「サービス」の割合がそれぞれ39%だ。通信ネットワークなどITインフラの構築を強みとしてきた同社ならではの事情だ。
開発・SIを3~4割まで高める
2021年春に発表する次期の中期経営計画(2021~23年)では、このようなポートフォリオを変えていく方針を打ち出す。開発・SIを成長の柱と位置付け、その取り組みを強化する戦略だ。CTCの櫻井直樹経営企画室長代行は「(売上収益に占める)開発・SIビジネスの割合を3~4割まで高めることを目指す」と語る。
同社は商社系のSIerという成り立ちから、ネットワーク機器やサーバー、ストレージ機器といったハードウエア製品の売り上げが多い。しかし、今後はハードのビジネスがこれまでのように右肩上がりで伸びる可能性は低い。ハードのコモディティー化やソフトウエアとの融合が進む中で、ハード単体による付加価値化が難しくなってきているからだ。「ハード自体に差異化の要素があるわけではないので、同じ製品を扱う企業があれば値段の競争になってしまう」(櫻井室長代行)
このため、ハードビジネスの競争力は維持しつつ、開発・SIといったソフトの領域を強化する。ITインフラの構築で培った知見を生かし、インフラの実性能を考慮したシステムの設計・実装などを他社との差異化の要素としていく考えだ。櫻井室長代行は「既存ビジネスからの脱却といっても、脱却していけない部分もある。その部分を見極めて新たなポートフォリオを築く」と話す。