時間や移動の手間を気にせずに日本のどこからでも施設を見学できる――。サッポロビールが運営するエビスビール記念館が2021年3月、Webサイトで利用できる3D(3次元)モデルとしてオープンした。実際に恵比寿(東京都渋谷区)にある建物を仮想空間内に再現。館内を歩いて回るように、展示物を閲覧できる。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、建物をVR(仮想現実)空間に再現して顧客との接点を増やす企業が増えている。特に緊急事態宣言下では、特定の場所に多くの人が集まることや換気の悪い屋内での対面行動などが制限されることから、従来とは異なる手法の開拓が課題となっているからだ。中でも、対面での顧客対応が多い住宅業界は、さまざまな手法を模索している。
住宅業界における営業活動では、モデルハウスへの集客や、その住宅会社で家を建てた顧客(OB顧客)の住宅に訪問するといった、実際の建物で体感してもらう手法が効果的だ。そのため、コロナ禍においては、いかに従来に近い体験を非対面の状況で顧客に提供できるかが重要となる。
その鍵を握る技術として、3DCG、360度カメラ、フォトグラメトリーといったVR技術やデバイスに注目が集まっている。VR技術を使い建物の3Dデータを作成し仮想空間に再現することで、パソコンやスマホなどを通じて建物の様子を疑似体験できる点に期待が高まっているからだ。
まるで本物の住宅をCGで再現
中堅から大手の住宅会社や不動産会社などでは、従来型の営業活動を補う取り組みとしてVR技術の活用に積極的だ。
例えば、ヒノキヤグループは21年1月、子会社である桧家住宅(東京・文京)のWebサイトで「VRセレクテリア」というサービスを開始した。実際に建っているモデルハウスの3DCGを作成。インテリアのスタイルが異なる11種類のプランを再現できるのが特徴だ。もともとは対面での顧客対応で活用するツールとして開発していたが、昨今のコロナ禍で展示場に来られない顧客向けにも活用できると同社は考えている。
仮想空間に住宅展示場を用意し、3DCGのモデルハウスを顧客が内覧できるサービスも登場している。ベンチャー企業のVR住宅公園(川崎市)が運営する「HOUPARK」はその1つだ。
住宅会社が持つ住宅の設計情報を基に、現実に近い精工な3DCGを作成。顧客は3DCGのモデルハウス内を歩き回るように内覧できる。さらに、VRゴーグルを使えば3DCGが実寸大で再現され、実際に建物内へ入り込んだかのような没入感を得ながら内覧が可能になる。
桧家住宅やHOUPARKの例は、仮想空間内に本物と見間違えるようなリアルなモデルハウスの3DCGを作成し、顧客に体験してもらうといった手法だ。CGで表現するため、むく材が経年でどのように変化するのかなどの実際の様子を伝えるのは難しいものの、イメージパースをリアルな建物として体感できる利点がある。
このような手法は、CADなどの図面データを基に高度な3DCGを作成する技術が必要だったり、高価なソフトが必要だったりと、高いコストや専門的ノウハウが欠かせないことが少なくない。そのため、住宅会社に代わって3DCGを作成する企業もある。