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レベル4自動運転を搭載できるか

 アップルカーにどんな機能や技術を盛り込むのか。多くの識者が予想するのが、今や生活の必需品となったiPhoneと車をストレスなく連携させることだ。単純だが、これだけでもスマホを手掛けないTeslaや既存の自動車メーカーと大きく差異化できる。

 実のところAppleは、iPhoneや腕時計型端末「Apple Watch」などと車を連携するための布石を長年かけて打ってきた。代表例が車載情報システム「CarPlay」とデジタル鍵「CarKey」、超広帯域無線通信「UWB(Ultra Wide Band)」である。iPhoneユーザーの利用環境を途切れることなくアップルカーに引き継ぐ仕組みをほぼ構築済みだ。「Appleは自然な体験を極めて重視する」(前刀氏)。

 iPhoneをかばんに入れて歩きながら車のドアをCarKeyにより自動で解錠し、乗り込むと自然に車両とCarPlayが起動する(図5)。同時に無線イヤホン「AirPods」で聞いていた音楽配信「Apple Music」の曲が車内に流れる――。

図5 BMWがAppleと共同開発するデジタル鍵
図5 BMWがAppleと共同開発するデジタル鍵
UWBを利用することで、かばんにiPhoneを入れたまま車を解錠できる(出所:BMW)
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 こうした車とiPhoneの自然な連携の鍵を握る技術の1つが、Appleが19年の「iPhone 11」から採用したUWBである。車とスマホの距離を約10cmの高い精度で測位できる注)。現状のCarKeyは近距離無線通信を利用するため、車の解錠にiPhoneをポケットやかばんから取り出す必要がある。UWBになれば車とスマホの距離を正確に把握できるため「ポケットから取り出すことなく解錠できる」(UWBチップを手掛けるNXPジャパンでアドバンスド・オートモーティブ・アナログ部部長の林則彦氏)。

注)UWBで測位精度を高められるのは、帯域幅が500MHzと広いからだ。広い周波数帯を使うほど、鋭く立った短いパルス信号を送信できる。反射波が戻るまでの時間で距離を計測するToF(Time of Flight)方式の場合、パルス信号が鋭く立つほど反射波が周囲の雑音に埋もれにくくなり、測距の精度を高められる。

 Appleが独自プロセッサー(SoC:System on Chip)を設計していることも、iPhoneを中心とした生態系と車の連携を加速させるのに役立つ(図6)。iPhoneやタブレット端末「iPad」、Apple Watchなどは同じアーキテクチャーに基づくSoCを利用することで、途切れにくく遅延の短い端末間のデータのやり取りを実現する。

 英調査会社Omdia(オムディア)の南川明氏は「自社製SoCがAppleの提供する体験の鍵を握っている」と分析する。アップルカーに自社製SoCを採用すれば、Apple製品と車の連携をさらに自然にできる。

図6 Macに採用するM1チップ
図6 Macに採用するM1チップ
Appleが設計し、台湾TSMCの最先端5nmプロセスで生産する(出所:日経クロステック)
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 自社製SoCの採用は、EVの弱点解消にもつながる。例えばパソコン「Mac」に採用したSoC「M1」では、演算性能を高めつつ消費電力を大きく減らした。EVに応用すれば、商品性能の根幹となる航続距離を延ばせる。

 アップルカーの自動運転機能については、当初は無人運転できるレベル4の水準に達しないと見る向きが多かった。Appleは19年に自動運転技術の米Drive.aiを買収するなど開発に取り組んできた。ただ専門家の間では、レベル4の開発で先頭を走るAlphabet傘下のWaymo(ウェイモ)とは「大差がある」との指摘がある(図7)。10年以上開発するWaymoですらレベル4の本格的な量産にこぎ着けていない。Appleがいきなり追いつくのは難しそうだ。

図7 自動運転開発ではGoogle系Waymoが先頭
図7 自動運転開発ではGoogle系Waymoが先頭
Appleは自動運転開発に出遅れている(出所:Waymo)
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 レベル4の自動運転車では、Appleブランドを生かしにくいとの見方もあった。レベル4の車両は当面、配車サービスなどのB2B事業に使われるからだ。アーサー・ディ・リトル・ジャパンパートナーの鈴木裕人氏は「AppleブランドはB2Cでこそ輝く。B2Bでは強みを生かせない」と指摘する。

 鈴木氏が「Appleは技術優先の企業ではない」と見ることも、レベル4の採用に否定的に見る一因だ。Appleは最先端の技術へのこだわりは薄く、既存のインフラや技術をうまく組み合わせることにたけた企業と評する。レベル4は最先端技術で、世界の誰も手中に収めていない。これまでのAppleの開発の進め方を見ると、レベル4を採用する優先順位は低いというわけだ。

アップルの秘密主義が足かせか

 百家争鳴アップルカー。実現の障壁となりそうなのは、技術や生産などの課題もさることながら、Apple自身の姿勢にあるとの見方があった。その徹底した秘密主義が、自動車開発と相性が悪いというのだ。

 自動車開発では、公道での実験や多くの部品メーカーとの協力が欠かせない。自動車のサプライチェーンはスマホよりも巨大で、情報統制ははるかに難しい。秘密主義を貫くのであれば、開発は遅々として進まない可能性がある。逆に言えばAppleが本気ならば、早晩、アップルカーの存在を明らかにすることになる。そのとき日本の自動車産業はどう向き合うのか。

 「Think Different(発想を変えよう)」――。

 創業者のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏が1997年にAppleトップに復帰した後、打ち出した有名なメッセージである。Appleの復活劇の始まりを象徴する。ジョブズ氏の夢とも言われ、既存の車と異なる発想で開発するだろうアップルカー。自動車メーカーは世界最強のテック企業に真っ向勝負を挑むのか、それとも違う土俵を探すのかの決断を迫られる。

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