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車開発のゴールが変わる

 これまでの自動車産業は頂点にいる完成車メーカーが企画から設計、生産までを一貫して担う垂直統合モデルだった。しかし、EVや自動運転など「CASE」の世界では、参入企業の目指すべきゴールが優れた車づくりから走行データを生かしたモビリティーサービス、エネルギーマネジメント、そして街づくりへと多様化していく。

 加藤氏は「ゴールが違えばどこまで自前でやるか企業のニーズは変わる。ピラミッド型の産業構造だけではなく、フラットな構造が併存する世界で、エコシステムの中心にいるための仕組みづくりを進めている」と語る。

 ティアフォーはオートウエアの普及を進めながら、自動運転車の開発受託やサービス提供などで収益を得るビジネスモデルを狙う。鴻海も中国や米国を念頭に新興メーカーのEV受託生産の準備を進めている。

 こうした「水平分業」の動きは広がりつつある。ファブレスの新興EVメーカーが相次ぎ生まれ、既存の自動車産業のプレーヤーと結びつく構図が出てきた。米高級車スタートアップ、Fisker(フィスカー)は車の開発・生産受託大手のオーストリアMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)にSUVタイプのEV生産を委託する計画。中国の新興EVメーカー、上海蔚来汽車(NIO)も中堅自動車メーカーの安徽江淮汽車集団(JAC)に生産を委託している(図3)。

図3 中国新興EVメーカーNIOはEVの生産を他社に委託
図3 中国新興EVメーカーNIOはEVの生産を他社に委託
(出所:NIO)
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 自動車は「走る・曲がる・止まる」という走りの安心・安全のメカニカルな基本の性能に加え、通信やIT、電動化などへの新たな対応を求められるようになった。開発領域は広がり、投資が右肩上がりで膨らむ中、どのようにして利益を稼ぐか。限られた経営資源を効率よく配分するため、強みの分野に集中し、任せる領域を選別できる水平分業の動きが広がるのは、自然な流れといえる。

 自動車産業がサービスを主体としたモビリティー産業への転換期を迎える中、後発でモビリティー産業に新規参入を狙うプレーヤーは、投資回収を早めるのに他社への生産委託が手っ取り早いと考える。IHS Markit(IHSマークイット)で自動車生産を予測する西本真敏氏は「EVプラットフォームをメーカー間で融通する動きはこれから増えてくる」と見通す。

 水平分業による自動車産業の構造転換を見据え、企業も動き出した。競技用の車両開発などを手掛けるタジマモーターコーポレーション(東京・中野)だ。出光興産と組んで22年の参入を目指す超小型EVは、全長2.5m、幅1.3mの4人乗りタイプ(図4)。フル充電の航続距離を120km前後とするなど、機能を最小限に絞り込み150万円前後の低価格での販売を目指す。21年秋の東京モーターショーでは試作車を発表する計画だ。

図4 タジマモーターが出光興産と開発している超小型EV
図4 タジマモーターが出光興産と開発している超小型EV
(出所:タジマモーター)
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 汎用部品をうまく活用し、低価格を実現する。最もコストが大きい車載電池では安全性を検証しながら、EVの使用済み電池の再利用品などの活用を検討する。生産は当面、出光の工場などを活用するが、生産規模が増えれば外部への委託も念頭に置くという。

 その上でさらなる差異化要因に掲げるのが、出光が展開する全国約6400カ所の給油所をカーシェアや販売の拠点とする点だ。手厚いメンテナンスと、利便性の高い立地を生かした移動サービスの提供をアピールして販売を増やす計画だ。

 「狙うのは自動車メーカーとはあまり競合しない、軽自動車未満、二輪車以上の市場」。会長兼社長の田嶋伸博氏はこう力を込める。公共交通機関が乏しい地方では移動手段が限られる。こうした中で自動車よりも手軽に利用できるモビリティーの需要は拡大すると読んだ。