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 ソニーが電気自動車(EV)の試作車「VISION-S(ビジョンS)」の公道走行に乗り出した。2020年1月に世界最大のエレクトロニクス見本市「CES」で初めて披露し、同年12月からオーストリアの路上で試験走行を始めた。Apple(アップル)カーの開発がささやかれるなか、ソニーは試作車の先に何を見据えるのか。開発を率いた執行役員の川西泉氏に聞いた。(聞き手は清水 孝輔=日本経済新聞社企業報道部)

川西泉氏
川西泉氏
(写真:日本経済新聞社)
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オーストリアで公道実験を始めました。

 自動車の評価は時間がかかる。走行実験はすぐには終わらない。ある程度の時間を使ってやっていく。車としての性能はより掘り下げて評価する必要がある。急ブレーキや加速、コーナリングなどのテストをしている。それに応じてブレーキやサスペンション、モーターなどの調整をしている。1つひとつ検証する必要がある。

試作だけではなく量産しないのですか。

 そういうお声はちょうだいする。造って良かった。ただ、そんなに単純ではない。やればやるほど思うのが、安心・安全を追求する技術は確立できているわけではないことだ。十分な知見をためる必要がある。焦ってやることはない、というのが今の正直なところだ。

開発手法は既存の自動車メーカーとソニーで異なるのでしょうか。

 すごく単純にいうと、アジャイル開発。車はやはり「ウオーターフォール」で仕様を決めて造り始める。ただアジャイルだけでもできない。アジャイルで短期間に回すと効率的かというと、必ずしもそうではない。何度もつくり替えると時間がかかる。2つのやり方のいいとこ取りすることを、ここ2年、3年と挑戦している。

アジャイルで開発したのは、ソフトの領域でしょうか。

 比較的ITの技術を入れやすい領域だ。車体そのものはある程度決められたプロセスがあるので、なかなか手を入れづらかった。ソニーでいうと、ダッシュボードの中や人に近いところ。ITの考えを応用しやすい領域で、ADAS(先進運転支援システム)周りにも適用した。ソフトの比重が高い領域のほうが入れやすい。